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コラム制度とお金ご家族向け

認知症の親の財産管理
— 施設を考える前に確かめる、年金・預金・保険 —

施設を探し始めたものの、候補がなかなか絞れない。見学しても「ここでいいのか」が決められない。 そういうご相談をうかがっていくと、行き詰まりの原因が施設の側ではなく、親御さんのお金がどうなっているか分からないままであることは少なくありません。 毎月いくらまで出せるかが決まっていないと、どの施設も高く見えますし、逆にどれも同じに見えてしまいます。 本記事では、認知症の親御さんの財産をどう把握し、そのあとどう管理していくかを、社会福祉士が順に整理しました。
掲載日:2026.10.29|監修:社会福祉士・入居相談員
この記事の答え

先に確かめるのは、毎月入ってくるお金と、手をつけられる蓄えです。この二つが決まると、候補の施設はひとりでに絞られます。

施設選びで必要になるのは、資産の全体像ではなく「毎月いくらまで、何年続けられるか」という一点です。確かめる先は、①毎月入ってくるお金(年金など)②蓄え(預貯金など)③保険 ④出ていくお金と借入、の四つに整理できます。あわせて、預貯金などの資産の状況が公的な軽減の判定に関わる場合があることも知っておいてください。介護保険法は、特別養護老人ホームなどの食費・居住費を軽くする給付の対象を「所得及び資産の状況その他の事情をしん酌して厚生労働省令で定めるもの」と定めています(第 51 条の 3 第 1 項)。そして、ご本人の意思を確かめられるうちに一緒に確かめておくことが、あとの手続きをいちばん軽くします。
中川 優美(社会福祉士・入居相談員)
この記事の監修者

中川 優美Yumi Nakagawa

社会福祉士。ふれあい入居サポートセンター葛飾相談室にて、入居相談を担当。「予算がいくらか分からない」という段階からのご相談も多く、手元の書類を一緒に並べて費用の見通しを立てるところからご一緒している。
社会福祉士(国家資格)ふれあい入居サポートセンター 葛飾相談室高齢者向け住まい紹介事業者届出 25-0881
編集ポリシー:本記事の制度の説明のうち、食費・居住費の軽減の対象については介護保険法 第 51 条の 3、扶養の義務については民法 第 877 条の原文に基づいて執筆しています(2026 年 9 月に原文を確認)。 金融機関での手続きの取扱いや、年金の通知が届く時期については、法令の条文を確認していません。金融機関・年金の窓口にご確認いただく形で記載しています。金額の基準は本記事には記載していません。 本記事内の事例はイメージで、特定の個人を表すものではありません。特定の施設をすすめる記事ではありません。

施設探しが止まるのは、たいていここです

見学に三件行ったけれど決められない、という方にお話をうかがうと、比べている軸が施設の設備や雰囲気だけになっていることがあります。そこに「うちはいくらまで出せるのか」という軸が入っていないと、どの施設も一長一短に見えて、決め手がなくなってしまいます。

ご相談の場で、私たちが最初にうかがうのもここです。ところが認知症のある親御さんの場合、この一点が分からないまま探し始めている方が少なくありません。無理もないことで、お金の話は親子の間でいちばん切り出しにくい話題です。

けれども、必要なのは資産の全体像ではありません。施設選びで使うのは、毎月いくら入ってきて、蓄えをどれだけ取り崩せるかという、たった二つの数字です。これが決まると、候補になる施設の種類がひとりでに絞られます。

確かめるのは、まず四つです

整理する先は、次の四つに分けると見通しが立ちます。順番もこのとおりで構いません。なお、これで全部という意味ではありません。不動産、貸金庫、共済や互助会の積立など、ご家庭によって出てくるものは違います。ここでは施設探しの費用の見通しに直接使う四つに絞っています。

確かめるもの見る書類施設選びでの使い道
① 毎月入ってくるお金通帳の振込記録、年金の通知月額のどこまでを収入でまかなえるか
② 蓄えと、その置き場所通帳、金融機関からのお知らせ収入で足りない分を何年補えるか
③ 保険保険証券、保険料の引落し記録入院・介護のときに受け取れるお金
④ 出ていくお金と借入請求書、引落し記録、督促の郵便入居後も続く支出、止められる支出

① 毎月入ってくるお金

いちばん確かなのは、通帳の振込記録です。年金は多くの場合、二か月分がまとめて振り込まれます。通帳を見るときは、一か月あたりに直して数えてください。

年金の額そのものは、年金の通知でも確かめられます。お手元に見あたらないときや、いつどの通知が届くのかを知りたいときは、年金の相談窓口で確認の方法を尋ねてみてください。

年金のほかに、次のような収入がある方もいらっしゃいます。通帳に振込の記録がないか、あわせて見てみてください。

  • 企業年金・個人年金
  • 恩給
  • 貸している土地・建物の家賃
  • 株式の配当、投資信託の分配金

② 蓄えと、その置き場所

蓄えについては、額と同じくらい「どこにあるか」が大切です。あとで手続きをするときに、取引のある金融機関が分からないと動けなくなるためです。

  • 通帳・キャッシュカードが何冊あるか、どこにしまってあるか
  • 窓口のない銀行(インターネット専業の銀行)の口座がないか
  • 証券会社との取引がないか
  • 郵便で届く金融機関からのお知らせは、どこから来ているか

見つからない口座の手がかりは、たいてい郵便物にあります。金融機関からの案内、配当の通知、保険料の引落しの記録などから、取引のある先が見えてきます。

③ 保険

生命保険や医療保険に入っておられる場合、入院や介護が必要になったときに受け取れるお金があることがあります。保険証券が見つかれば、次の点を確かめてみてください。

  • 契約している会社と、保険の種類
  • 契約者・被保険者・受取人が、それぞれどなたになっているか
  • 入院や介護の状態になったときに支払われる特約が付いていないか
  • 保険料の支払いがいつまで続くか

証券が見つからないときは、通帳の引落しの記録から会社名を探し、その会社に問い合わせる方法があります。窓口や必要な書類は会社によって違いますので、直接お尋ねください。

④ 出ていくお金と借入

見落とされがちなのが、この四つめです。入居したあとも自動的に引き落とされ続ける支出があります。

  • 家賃・地代、固定資産税
  • 電気・ガス・水道、電話・携帯電話、新聞、月々の会費
  • 医療費、薬代
  • 住宅ローン、その他の借入の返済

入居後に止められるもの(新聞、使わなくなる携帯電話の契約など)と、止められないもの(実家を残す場合の固定資産税など)を分けておくと、月々の見通しがはっきりします。督促の郵便が届いていないかも、あわせて確かめておいてください。

預貯金の額は、公的な軽減の判定にも関わります

蓄えを確かめておくことには、もうひとつ理由があります。公的な軽減の制度の中に、資産の状況を見て対象を決めるものがあるためです。

特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院・ショートステイの食費と居住費を軽くする負担限度額認定(補足給付)という制度があります。介護保険法は、この給付の対象になる方を「所得及び資産の状況その他の事情をしん酌して厚生労働省令で定めるもの」と定めています(第 51 条の 3 第 1 項)。つまり、所得だけでなく預貯金などの資産の状況も判定に関わる仕組みです。

申請の際には、預貯金が確認できる書類を求められます。必要な書類は自治体によって異なりますので、お住まいの市区町村の介護保険担当課にお尋ねください。

いくらまでが対象になるかという具体的な要件と金額は、別記事「介護費用を軽くする 2 つの制度|高額介護サービス費と負担限度額認定」に一覧でまとめています。あわせて、費用を抑えて入れる施設の探し方は「費用を抑えて入れる老人ホームの探し方」、年金の範囲で組み立てる考え方は「年金だけで入れる老人ホームの探し方」でも整理しています。

判断能力が下がる前と、下がったあと

いま確かめられること

認知症と診断されていても、ご本人が自分のことを決められる状態は続きます。ご本人と一緒に確かめられるうちに確かめておくことが、結果としていちばん手間の少ない進め方になります。

一緒に確かめておきたいのは、次の三つです。

  1. どこに何があるか(通帳・印鑑・保険証券・権利証などの置き場所)
  2. どこと取引があるか(金融機関・保険会社の名前)
  3. ご本人がどうしたいか(実家をどうするか、何にお金を使いたいか)

三つめは、書類の話ではありません。けれども、あとになって「本人ならどう考えただろう」と迷う場面は少なくありません。そのときに支えになるのは、元気なうちに聞いた一言です。

下がったあとの制度

判断能力が下がってくると、金融機関での手続きや施設との契約が、これまでどおりには進まない場面が出てきます。取扱いは金融機関によって異なりますので、心配な点は取引のある窓口で先に確かめておいてください。

判断能力が下がったあとの財産の管理や契約のために、成年後見制度が設けられています。制度の仕組み、後見人ができることとできないこと、手続きの流れは、別記事「成年後見制度と老人ホームの入居・契約」にまとめています。手続きには時間がかかり、後見人の役割にも範囲がありますので、施設探しと並行して進める場合は早めに調べ始めてください。

子のお金を先に出す前に

親御さんの蓄えが足りないとき、ご家族が先に立て替えて支払いを始められることがあります。その前に、二つだけ確かめておいてください。

ひとつめは、公的な軽減の制度を先に確かめたかです。ご家族が補填を始めると、「足りている」ように見えてしまい、使えたはずの制度が見落とされることがあります。前章の二つの制度について、対象になる見込みがあるかどうかと、手続きに何が要るかを、先に市区町村の介護保険担当課で確かめてください。

ふたつめは、記録を分けているかです。ご本人のお金から支払った分と、ご家族が立て替えた分は、はじめから分けて記録しておいてください。何に・いつ・いくら支払ったかを、領収書とあわせて残します。時間が経ってから思い出そうとすると、きょうだいの間で「誰がどれだけ出したか」が分からなくなり、話し合いがこじれる原因になります。

ただし、記録があれば必ず返してもらえる、というものではありません。あとで返してもらう約束だったのか、援助するつもりで出したのかといった扱いによって、結論は変わります。額が大きくなりそうなときは、出し始める前にごきょうだいの間で扱いを決めておき、必要に応じて法律相談の窓口にも相談してみてください。

なお、費用を誰が負担するのかという点について、民法は「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定めています(第 877 条第 1 項)。ただしこれは、施設の費用を子が当然に負担するという意味ではありません。原則はご本人の年金と資産で、扶養の義務がどこまでを指すのかという考え方は、別記事「老人ホームの費用は誰が払うのか」で整理しています。

蓄えも収入も足りず、ご家族の補填も続けられないという場合には、生活保護という制度もあります。受給しながら入居できる場合の仕組みは「生活保護でも入れる老人ホーム」をご覧ください。

きょうだいで共有するときの形

調べたことは、ひとりの頭の中に置かないでください。あとで説明を求められる場面は、たいてい訪れます。おすすめしているのは、一枚の表にして共有しておく形です。

項目書いておくこと
収入年金などが、月あたりいくら入るか
蓄えどの金融機関に、おおよそいくらあるか
保険会社名と保険の種類、受取人
毎月の支出入居後も続くもの、止められるもの
書類の置き場所通帳・印鑑・証券・権利証がどこにあるか
支払いの記録ご本人のお金から出した分、立て替えた分

金額はおおよそで構いません。大切なのは、同じものを全員が見ている状態をつくることです。離れて暮らすごきょうだいがいる場合ほど、この一枚が効きます。

話し合いの進め方そのものについては「兄弟姉妹で介護分担を決める」、遠方にお住まいの場合の進め方は「遠距離・疎遠の家族による施設探し」でも整理しています。契約の段階で確かめる点は「重要事項説明書の読み方」をご覧ください。

よくあるご質問

Q. 親に通帳の場所を聞くのが、どうしても切り出しにくいです。

A. 「管理する」「預かる」という言葉から入ると、取り上げられると感じられてしまうことがあります。うまくいきやすいのは、目的を先に置く形です。「介護保険で安くなる制度があるらしいから、手続きに要るものを一緒に探したい」「入院したときに困らないように、どこに何があるかだけ教えておいてほしい」といった伝え方です。一度で全部そろえようとせず、年金の振込がある通帳の一冊からで構いません。ご本人と一緒に確かめるという形をとると、あとでご本人にも説明しやすくなります。

Q. どこにいくらあるのか、親も分からなくなっています。

A. 手がかりは、届く郵便物と、いま分かっている通帳の記録にあります。金融機関や保険会社からのお知らせ、保険料の引落しの記録、固定資産税や配当の通知などから、取引のある先が見えてきます。しばらく動きのない口座がある場合、手続きの方法は金融機関ごとに違いますので、窓口で確かめてみてください。なお、すべてを洗い出してから動かなくても大丈夫です。施設探しに必要なのは、まず毎月の収入と、手をつけられる蓄えのおおよその額です。

Q. 預貯金が多いと、費用を軽くする制度は使えませんか。

A. 制度によります。特別養護老人ホームなどの食費・居住費を軽くする負担限度額認定(補足給付)は、介護保険法に「所得及び資産の状況その他の事情をしん酌して」対象を定めると書かれており(第 51 条の 3 第 1 項)、預貯金などの資産の状況も判定に関わります。一方、介護サービスの自己負担に月の上限を設ける高額介護サービス費は、所得の区分で上限が決まる仕組みです。具体的な要件や金額は制度ごとに違いますので、別記事の一覧と、お住まいの市区町村の介護保険担当課でご確認ください。

Q. 子どもが立て替えた分は、あとで親のお金から返してもらえますか。

A. ご家族の間の取り決めによります。記録があれば必ず返してもらえる、というものではありません。あとで返してもらう約束だったのか、援助するつもりで出したのかといった扱いによって、結論は変わります。そのうえで、返してもらうつもりがあるのなら、立て替えた時点で記録を残しておいてください。何に・いつ・いくら支払ったかを、領収書とあわせて残します。ご本人のお金とご家族のお金は、はじめから分けて記録しておくことをおすすめしています。額が大きくなりそうなときは、出し始める前にごきょうだいの間で扱いを決めておき、必要に応じて法律相談の窓口にも相談してみてください。

Q. 判断能力が下がってからでは、もう何もできませんか。

A. できることは残っています。判断能力が下がったあとの財産の管理や契約のために、成年後見制度が設けられています。ただし手続きには時間がかかりますし、後見人ができることにも範囲があります。そのため、ご本人の意思を確かめられる段階のうちに、どこに何があるかだけでも一緒に確かめておいていただくほうが、あとの負担は軽くなります。

まとめ

認知症のある親御さんの財産管理は、「全部を把握してから」と考えると動けなくなります。施設探しのために必要なものだけを、順に確かめてください。

  1. 使うのは毎月いくら入るかと蓄えをどれだけ取り崩せるかの二つです。資産の全体像は要りません
  2. 確かめる先は収入・蓄え・保険・出ていくお金の四つ。手がかりは通帳の記録と届く郵便物にあります
  3. 預貯金などの資産の状況が判定に関わる制度があります。介護保険法は食費・居住費の軽減の対象を「所得及び資産の状況その他の事情をしん酌して」定めると書いています(第 51 条の 3 第 1 項)
  4. お金の話は目的を先に置いて切り出してください。「管理する」から入ると、その後話してもらえなくなることがあります
  5. ご本人の意思を確かめられるうちに、置き場所と取引先だけでも一緒に確かめておいてください
  6. ご家族が立て替えるときは、ご本人のお金と分けて記録を。あとの話し合いがまったく違ってきます

お金の全体が見えると、施設の候補は驚くほど早く絞られます。どこから手をつければよいか迷われたときは、お気軽にご相談ください。まだ何も分かっていない段階で構いません。

参考文献・公的資料

  1. 介護保険法(平成9年法律第123号)第51条の3第1項(特定入所者介護サービス費の支給。対象となる要介護被保険者を「所得及び資産の状況その他の事情をしん酌して厚生労働省令で定めるもの」と定めること、対象サービスとして指定介護福祉施設サービス・介護保健施設サービス・介護医療院サービス・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護・短期入所生活介護・短期入所療養介護の6つを掲げること)(2026年9月19日に原文を確認)
  2. 民法(明治29年法律第89号)第877条第1項(扶養義務者。直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務があること)(2026年9月19日に原文を確認)
  3. 年金の支払いの時期や通知が届く時期については、本記事では法令の条文を確認していません。年金の相談窓口にご確認ください
  4. 判断能力が下がった場合の預貯金の取扱いは、金融機関によって異なります。取引のある金融機関にご確認ください。負担限度額認定の申請に必要な書類は自治体によって異なりますので、市区町村の介護保険担当課にご確認ください

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