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コラム制度とお金ご家族向け

老人ホームの費用は誰が払うのか
— 子に義務はあるか・兄弟の分担を社会福祉士が整理 —

施設の見積もりを見て、まず頭に浮かぶのが「このお金は誰が出すのか」という問いです。親の年金だけでは足りない、けれど自分たちの生活もある。——口に出しにくいまま、話が止まってしまうことがあります。 本記事では、原則はご本人の年金と資産であることを出発点に、子に法律上どこまでの義務があるのか、契約書への署名で生じる義務は扶養義務とは別のものであること、そして兄弟で分担するときに何を残しておくべきかを整理しました。
掲載日:2026.09.09|監修:社会福祉士・入居相談員
この記事の答え

原則はご本人の年金と資産です。子に扶養の義務はありますが、自分の生活を犠牲にしてまで負担する義務とまでは言えません。ただし契約書に連帯保証人として署名すると、扶養義務とは別の支払い義務が生じます。

施設に入居して契約するのはご本人ですので、費用はご本人の年金と資産から払うのが原則です。民法では直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養をする義務があるとされていますが、親や兄弟姉妹への扶養は自分の社会的な地位や収入に相応した生活をしたうえで、余力のある範囲で援助する義務と考えられています。子が全額を負担しなければならないと法律が定めているわけではありません。一方、契約書に連帯保証人として署名すると、契約にもとづく支払い義務が生じます。これは扶養義務とは別の話です。2020年4月1日以降に結ばれた個人の根保証契約では、上限となる極度額の定めがなければ保証契約は無効とされていますので、署名の前に自分の立場と上限額を必ず確認してください。ご本人の預金を使うときは、ご本人の同意または適切な代理権が必要です。同意も代理権もないまま使うことは経済的な虐待にあたる場合があります。兄弟で分担するときは、誰がいくら立て替えたかを領収書とともに記録に残してください。
中川 優美(社会福祉士・入居相談員)
この記事の監修者

中川 優美Yumi Nakagawa

社会福祉士。ふれあい入居サポートセンター葛飾相談室にて、入居相談を担当。ご家族の間での費用の分担についてのご相談も含めて、サポートしている。
社会福祉士(国家資格)ふれあい入居サポートセンター 葛飾相談室高齢者向け住まい紹介事業者届出 25-0881
編集ポリシー:本記事は、民法(扶養義務・保証)および高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律の規定をもとに、当センターの入居相談の実務を加えて執筆しています(2026 年 8 月に確認)。個別の法律上の判断は本記事では行えません。扶養の負担の程度や契約上の責任について争いがある場合は、弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。費用が払えない状況にあるときは、お住まいの市区町村の窓口にご相談ください。本記事内の事例はイメージで、特定の個人を表すものではありません。

まず知っておきたいこと

出発点は「ご本人の年金と資産から払う」です。

施設に入居するのはご本人であり、契約を結ぶのもご本人です。ですから、その費用はご本人が負担するのが筋になります。

当たり前のことのようですが、実際のご相談では、最初から「子が出すもの」という前提で話が始まることが少なくありません。すると次のようなことが起こります。

  • ご本人の資産を把握しないまま、施設の予算を決めてしまう
  • ご本人の収入で受けられる軽減の制度を見落とす
  • 子の側が無理をして、共倒れになる

ですから、順序としては次のようになります。

  1. ご本人の年金と資産を把握する
  2. その範囲で払える施設を探す
  3. 足りない分について、使える制度を確認する
  4. それでも足りないところを、ご家族でどう分担するか話し合う

4番目から始めないでください。 1〜3を飛ばすと、必要のない負担を背負うことになります。

子に支払い義務はあるか

法律ではどうなっているのか。ここを正確に押さえておくと、話し合いの前提がそろいます。

民法の定め

民法では、次のように定められています。

直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

(民法 第877条第1項)

親子は直系血族にあたりますので、子には親を扶養する義務があります。これは事実です。

ただし「程度」が違う

大切なのはここからです。扶養の義務には、程度の違いがあると考えられています。

対象義務の程度中身
未成熟の子に対する親の扶養生活保持義務自分と同じ水準の生活ができるようにする
親・祖父母・兄弟姉妹に対する扶養生活扶助義務自分の社会的な地位や収入に相応した生活をしたうえで、余力のある範囲で援助する

つまり、親への扶養は「自分の生活を切り詰めてまで負担する義務」とまでは言えないと考えられています。

「子どもなんだから全部出すのが当然」という言い方をされることがありますが、法律がそう定めているわけではありません。自分たちの生活が壊れる水準の負担まで求められているのではない——このことは知っておいてください。

なお、負担の程度について家族の間で折り合いがつかない場合、家庭裁判所の手続き(扶養の調停・審判)で判断されることになります。実際にそこまで進むことは多くありませんが、制度としては用意されています。

個別の判断は、この記事では行えません。 争いになりそうなときは、弁護士や司法書士にご相談ください。費用が心配なときは、法テラス(日本司法支援センター)で収入に応じた無料相談や費用の立替えの制度を案内してもらえる場合があります。

契約で生じる義務は別のもの

ここが実務でいちばん大切な点です。

前の章でお伝えしたのは、法律が定める扶養の義務の話でした。それとは別に、契約によって生じる義務があります。

連帯保証人になると、支払い義務が生じる

入居契約書に連帯保証人として署名すると、ご本人が支払えなくなったときに、代わりに支払う義務が生じます。これは扶養義務とは別の、契約にもとづく義務です。

つまり、扶養義務としては「余力の範囲」であっても、連帯保証人として署名していれば、契約で決められた分を支払うことになります。

署名の前に確認すること

1. 自分がどの立場で署名しようとしているのか

契約書には、いくつかの立場が出てきます。名称は施設によって異なりますが、支払いの責任を負う立場かどうかは必ず確認してください。分からなければ、「これは支払いの責任を負う署名ですか」と率直に尋ねて構いません。

2. 上限額(極度額)の定めがあるか

2020年4月1日以降に結ばれた、個人が保証人になる根保証契約では、支払いの上限となる極度額を定めていなければ、保証契約は無効とされています。老人ホームの入居契約に伴う保証も、この対象になります。

契約書に上限額が書かれているかを確認してください。書かれていない場合は、施設に確認を求めてください。

3. どこまでの範囲を保証するのか

利用料だけなのか、原状回復の費用や、それ以外の損害も含むのか。範囲は契約書に書かれています。

契約書の読み方については、別記事「重要事項説明書の読み方|契約前に必ず確認したい 8 項目」もご覧ください。

本人のお金を使うときの注意

ご本人の財産は、ご本人のものです。 ご家族が管理を任されている場合でも、この原則は変わりません。

同意か、代理権か

  • ご本人が理解して意思を示せる状態であれば、その同意を得たうえで使います
  • 判断が難しくなっている場合は、ご家族に適切な代理権があるかを整理します

同意も代理権もないまま、家族がご本人の財産を使うことは、経済的な虐待にあたる場合があります。 悪意がなくても、後から問題になることがあります。とくに、きょうだいのうち一人だけが通帳を管理している場合、相続のときに争いになりやすいところです。

法律は、養護者またはご本人の親族が、その高齢者の財産を不当に処分することを経済的な虐待として定めています(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律 第 2 条第 4 項第 2 号)。同居して介護している方だけでなく、離れて暮らす親族も対象に含まれます。

気づいたときの相談・通報先

もし身近でそうした状況に気づいたときの相談・通報先は、お住まいの市区町村です(地域包括支援センターでも受け付けています)。同法第 7 条は、ご本人の生命または身体に重大な危険が生じている場合は、市町村に通報しなければならないと定めており、それ以外の場合も、速やかに通報するよう努めることとされています。

口座が使えなくなることがある

金融機関がご本人の判断能力の低下を把握すると、口座の取引が制限されることがあります。ご本人を守るための取り扱いです。

そうなると、施設の費用の引き落としや振り込みができなくなります。判断が難しい状態が続くときは、成年後見の仕組みを検討してください。詳しくは別記事「成年後見制度と入居契約」で整理しています。

早めにしておきたいこと

ご本人が元気なうちに、年金の額・預貯金・保険・不動産をご本人と一緒に把握しておくと、いざというときに動けます。ご本人に無断で調べるのではなく、「もしものときに困らないように」と一緒に確認するのが、後々の争いを避ける進め方です。

兄弟で分担するとき

法律が分担の割合を決めているわけではありません。 話し合って決めることになります。

そのうえで、いちばん大切なのは記録を残すことです。

残しておきたい記録

記録することなぜ必要か
ご本人のお金から払った分(日付・金額・用途)本人の資産がどう使われたかの説明ができる
誰がいくら立て替えたか相続のときに主張の根拠になる
領収書・振込の控え記録の裏づけになる
話し合って決めたこと後から「聞いていない」を防ぐ

相続のときに、この記録がないと立て替えを主張しにくくなります。 「自分だけが出してきた」という思いが残り、きょうだいの関係がこじれる原因になります。

面倒に感じても、簡単なノートや表計算のファイルで構いませんので、その都度残してください。

お金以外の負担も見えるようにする

分担の話がこじれるのは、お金だけが数字になり、通う手間・手続き・面会といった負担が見えなくなるためです。「お金は出すが行けない」「近いから通うが余裕がない」——どちらも負担です。

分担の話し合いの進め方は、別記事「兄弟姉妹で介護分担を決める — こじれない話し合いの進め方」で詳しくお伝えしています。

足りないときに使える制度

ご本人の資産で足りないときは、ご家族が肩代わりする前に、使える制度を確認してください。

  • 食費・居住費の軽減(負担限度額認定) … 介護保険施設とショートステイが対象です
  • 高額介護サービス費 … 介護サービスの自己負担に月ごとの上限があります
  • 社会福祉法人による利用者負担の軽減 … 対象となる施設・要件があります
  • 高額医療・高額介護合算療養費 … 医療と介護の自己負担を年間で合算します
  • 生活保護 … 上記を使ってもなお生活が成り立たないとき

これらの詳しい仕組みと金額は、別記事「介護費用を軽くする 2 つの制度|高額介護サービス費と負担限度額認定」にまとめています。

また、そもそもの費用を抑えた施設を選ぶという方向もあります。収入に応じて費用が変わるケアハウスなどの選択肢は、別記事「ケアハウス(軽費老人ホーム)の入居条件と費用」や「費用を抑えて入れる老人ホームの探し方」をご覧ください。

すでに入居していて支払いが難しくなった場合は、別記事「老人ホームの費用が払えなくなったら」で対処の順序を整理しています。滞納が続く前に、早めに施設と市区町村に相談してください。

よくあるご質問

Q. 老人ホームの費用は、誰が払うのが原則ですか。

A. ご本人の年金と資産から払うのが原則です。施設に入居するのはご本人であり、契約するのもご本人ですので、その費用はご本人が負担するのが筋になります。まずは年金の額、預貯金、保険、不動産といったご本人の資産を把握するところから始めてください。ご家族が肩代わりする前提で考え始めると、使えたはずの制度を見落とすことがあります。

Q. 子どもに支払い義務はありますか。

A. 民法では直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養をする義務があるとされています。ただし、親や兄弟姉妹に対する扶養は、自分の社会的な地位や収入に相応した生活をしたうえで、余力のある範囲で援助する義務と考えられています。自分の生活を切り詰めてまで負担する義務とまでは言えません。 負担の程度が争いになった場合は、家庭裁判所の手続きで判断されることになります。

Q. 契約書にサインすると支払い義務が生じますか。

A. 契約の中身によります。連帯保証人として署名した場合には、ご本人が支払えなくなったときに代わりに支払う義務が生じます。 これは扶養義務とは別の、契約にもとづく義務です。なお、2020年4月1日以降に結ばれた個人の根保証契約では、上限となる極度額の定めがなければ保証契約は無効とされています。署名の前に、自分がどの立場で署名しようとしているのか、上限額の定めがあるかを必ず確認してください。

Q. 親の預金から払ってよいですか。

A. ご本人の財産はご本人のものです。 ご本人が理解して同意できる状態であれば、その同意を得たうえで使います。判断が難しくなっている場合は、ご家族に適切な代理権があるかを整理してください。同意も代理権もないまま家族が本人の財産を使うことは、経済的な虐待にあたる場合があります。 金融機関が判断能力の低下を把握すると口座の取引が制限されることもありますので、判断が難しい状態が続くときは成年後見の仕組みを検討してください。

Q. 兄弟でどう分担すればよいですか。

A. 法律が割合を決めているわけではありませんので、話し合って決めます。大切なのは記録を残すことです。誰がいくら立て替えたのか、ご本人のお金からいくら払ったのかを、領収書と一緒に残してください。相続のときにこの記録がないと立て替えを主張しにくくなり、きょうだいの関係がこじれる原因になります。

まとめ

老人ホームの費用を誰が払うかについて、大切な点を振り返ります。

  1. 原則はご本人の年金と資産です。まずここを把握してから施設を探します
  2. 「子が出す」前提から始めないでください。 使えたはずの制度を見落とします
  3. 民法上、子には親を扶養する義務がありますが、余力のある範囲で援助する義務と考えられています
  4. 契約書への連帯保証人としての署名は、扶養義務とは別の支払い義務を生みます
  5. 2020年4月1日以降の個人の根保証は、上限額(極度額)の定めがなければ無効です。署名前に確認します
  6. ご本人の預金を使うには同意か適切な代理権が要ります。ないまま使うと経済的な虐待にあたる場合があります
  7. 兄弟の分担は記録を残す。相続のときに効いてきます
  8. 足りないときは、肩代わりの前に使える制度を確認します

お金の話は切り出しにくく、後回しになりがちです。ですが、順序を守れば背負わなくてよい負担が見えてきます。予算に合う施設が見つからずお困りのときは、お気軽にご相談ください

参考文献・公的資料

  1. 民法(明治29年法律第89号)第877条第1項(扶養義務者)— 「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」(e-Gov 法令検索、2026年9月確認)
  2. 民法 第465条の2 第2項(個人根保証契約の極度額)— 「個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない」。2020年4月1日施行の改正民法による(e-Gov 法令検索、2026年9月確認)
  3. 法務省「保証に関する民法のルールが大きく変わります」— 個人根保証契約における極度額の定め(2026年9月確認)
  4. 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律 第2条第4項第2号(経済的虐待の定義)および第7条第1項・第2項(市町村への通報)(2026年9月確認)
  5. 裁判所「扶養請求調停」— 扶養の程度・方法について協議が調わないときは家庭裁判所の調停・審判で定める(2026年9月確認)

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