介護費用の軽減は「介護サービス代」と「食費・居住費」に分けて考えます。前者は高額介護サービス費、後者は負担限度額認定の守備範囲です。

中川 優美Yumi Nakagawa
2 つの制度の違い
名前が似ていて混同しやすいのですが、軽くしてくれる費用がまったく違います。まずこの違いを押さえると、その先がすっと整理できます。
| 高額介護サービス費 | 負担限度額認定(補足給付) | |
|---|---|---|
| 軽くなる費用 | 介護サービスの自己負担(1〜3 割負担の部分) | 施設の 食費・居住費 |
| 対象になる場所 | 在宅・施設を問わず介護保険サービス全般 | 特養・老健・介護医療院・ショートステイ のみ |
| 対象になる人 | 所得を問わず全員(上限額が所得で変わる) | 住民税非課税世帯など、所得・資産の要件あり |
| 申請 | 一度申請すれば、以後は自動的に振り込まれるのが一般的 | 認定証の交付を受け、毎年更新 |
ざっくり言うと、高額介護サービス費は「介護サービス代の月の上限」、負担限度額認定は「施設の食費・部屋代の値引き」 の制度です。両方に当てはまる方は、併用できます。
高額介護サービス費
仕組み
1 か月の介護サービスの自己負担(1〜3 割負担の部分)が、世帯の合計で上限額を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。
| 所得区分 | 月額上限 |
|---|---|
| 課税所得約 690 万円(年収約 1,160 万円)以上 | 140,100 円(世帯) |
| 課税所得約 380 万円(年収約 770 万円)以上〜約 690 万円未満 | 93,000 円(世帯) |
| 住民税課税世帯〜課税所得約 380 万円未満 | 44,400 円(世帯) |
| 住民税非課税世帯 | 24,600 円(世帯) |
| 住民税非課税で年金収入+その他の合計所得 80 万円以下、生活保護受給者など | 15,000 円(個人) |
(2026 年 6 月時点。出典: 厚生労働省「高額介護(介護予防)サービス費の概要について」)
たとえば住民税非課税世帯の親御さんが要介護 4 で介護サービスをたくさん使い、1 割負担が月 3 万円になった場合でも、上限の 24,600 円を超えた分は申請により払い戻されます。
対象にならない費用
注意したいのは、この制度の対象は「介護サービスの自己負担」だけ という点です。
- 施設やショートステイの食費・居住費(後述の負担限度額認定の守備範囲です)
- 老人ホームの家賃・管理費などの月額利用料
- 福祉用具の購入費・住宅改修費
- 介護保険の上限を超えて全額自己負担で使った分
「介護サービス代」と「家賃・食費」を分けて考えると、どちらの制度が効くのかが分かりやすくなります。
申請のしかた
支給の対象になると、多くの自治体では市区町村から申請の案内が届きます。一度申請して口座を登録すれば、以後は該当する月の分が自動的に振り込まれる運用が一般的です。案内を見落としていた場合や届かない場合は、市区町村の介護保険担当課に問い合わせてみてください。
なお、払い戻しを受ける権利には時効があり、2 年を過ぎると受け取れなくなります(介護保険法 第 200 条)。「もしかして対象だったかも」と思い当たる場合は、2 年以内であればさかのぼって申請できますので、早めに確かめてみてください。
負担限度額認定(補足給付)
仕組みと対象施設
特養などの介護保険施設に入ると、介護サービスの自己負担とは別に、食費と居住費(部屋代)がかかります。この食費・居住費を、所得の低い方向けに軽減するのが負担限度額認定です。正式には「特定入所者介護サービス費(補足給付)」という制度です。
対象になる施設は限られています。ここが施設選びにも関わる大切なポイントです。
| 対象 | 対象外 |
|---|---|
| 特別養護老人ホーム(特養) | 介護付き有料老人ホーム |
| 介護老人保健施設(老健) | 住宅型有料老人ホーム |
| 介護医療院 | サービス付き高齢者向け住宅 |
| ショートステイ(短期入所) | グループホーム |
対象になる人(所得と資産の 2 つの要件)
世帯全員(世帯を分けている配偶者も含みます)が住民税非課税であることが基本の要件で、所得に応じて第 1〜第 3 段階②に分かれます。あわせて、預貯金などの資産要件もあります。
| 段階 | 主な対象 | 預貯金等の上限(夫婦の場合) |
|---|---|---|
| 第 1 段階 | 生活保護を受給している方など | 1,000 万円(2,000 万円)以下 ※生活保護受給者は要件なし |
| 第 2 段階 | 世帯全員が非課税で、年金収入+合計所得が 80 万円以下 | 650 万円(1,650 万円)以下 |
| 第 3 段階① | 同じく 80 万円超〜120 万円以下 | 550 万円(1,550 万円)以下 |
| 第 3 段階② | 同じく 120 万円超 | 500 万円(1,500 万円)以下 |
(2026 年 6 月時点。出典: 厚生労働省 介護保険最新情報 Vol.1280。なお 2026 年 8 月から第 2 段階の「80 万円」の基準線は「82.65 万円」に変わります)
世帯に住民税を払っている方がいる場合(第 4 段階)は、対象外になります。
どのくらい軽くなるか(1 日あたりの負担限度額)
認定を受けると、食費・居住費の負担が 1 日あたり次の額までになります。
| 項目 | 基準費用額(軽減なしの目安) | 第 1 段階 | 第 2 段階 | 第 3 段階① | 第 3 段階② |
|---|---|---|---|---|---|
| 食費 | 1,445 円 | 300 円 | 390 円 | 650 円 | 1,360 円 |
| 居住費(多床室・特養) | 915 円 | 0 円 | 430 円 | 430 円 | 430 円 |
| 居住費(従来型個室・特養) | 1,231 円 | 380 円 | 480 円 | 880 円 | 880 円 |
| 居住費(ユニット型個室) | 2,066 円 | 880 円 | 880 円 | 1,370 円 | 1,370 円 |
(2026 年 7 月までの額・主な居室タイプを抜粋。2026 年 6 月時点、出典: 厚生労働省 介護保険最新情報 Vol.1280)
たとえば第 2 段階の方が特養の多床室に入った場合、食費と居住費をあわせて 1 日 820 円、月にしておよそ 2.5 万円です。軽減がない場合の基準費用額(食費 1,445 円+多床室 915 円=1 日 2,360 円、月およそ 7.2 万円)と比べると、月 4〜5 万円ほど負担が変わる計算になり、施設で暮らし続けられるかどうかを左右する大きさだと、ご相談の場面でも実感しています。
2026 年 8 月 1 日からの変更点
負担限度額は、2026 年 8 月 1 日から一部が変わります(令和 8 年厚生労働省告示第 88 号)。
- 食費の基準費用額が 1,445 円から 1,545 円 に上がります
- 第 3 段階② の方の負担限度額が上がります(食費 1,360 円 → 1,420 円、居住費は多床室 430 円 → 530 円、ユニット型個室 1,370 円 → 1,470 円 など)
- 第 3 段階① の方の食費が 650 円 → 680 円 に上がります
- 第 2 段階の所得の基準線が「80 万円以下」から「82.65 万円以下」に変わります(基準線がわずかに広がる方向の変更です)
- 第 1 段階・第 2 段階の負担限度額は据え置かれます
これから申請する方は、8 月以降は新しい額が適用されることを頭に入れておいてください。すでに認定を受けている方も、毎年 8 月の更新のタイミングで新しい額に切り替わります。
申請のしかた
負担限度額認定の申請先は、親の住所地の市区町村の介護保険担当課 です。
- 申請書を提出します。窓口・郵送のほか、自治体によっては電子申請にも対応しています
- 預貯金などが確認できる書類を添えます。本人(配偶者がいる場合は配偶者も)の通帳の写しなどが必要です。細かい必要書類は自治体によって異なりますので、事前にホームページか電話で確かめておくとスムーズです
- 認定されると「負担限度額認定証」が届きます。施設やショートステイの利用時に提示すると、軽減後の額で請求されます
- 毎年更新があります。認定証の有効期間は 7 月末までで、8 月に切り替わるのが一般的です。更新の案内が届いたら忘れずに手続きしてください
施設に入ってから申請を思い立った場合も、あきらめる必要はありません。まずは市区町村に相談してみてください。なお、ショートステイの利用が決まったタイミングなど、入所前に申請しておくと安心です。
施設選びへの影響
この制度は、施設選びの費用比較にも直結します。
負担限度額認定(補足給付)が効くのは特養・老健・介護医療院だけで、介護付き有料老人ホームやサ高住では食費・居住費の軽減はありません。一方、高額介護サービス費は介護付き有料老人ホームの介護自己負担分にも適用されます。
このため、住民税非課税世帯で預貯金も要件内という方の場合、特養と介護付き有料老人ホームの実質的な月額差は、表面上の料金差よりさらに大きくなることがあります。特養と介護付き有料の選び分けは、別記事「特養と介護付き有料老人ホームの違い」で詳しく解説しています。
よくあるご質問
Q. 世帯分離をすれば対象になりますか。
A. 負担限度額認定では、住民票の世帯を分けていても、配偶者は世帯に含めて 非課税かどうかを判定します(夫婦間の世帯分離では要件を満たせません)。一方、子世帯と同居している場合の扱いは世帯の構成によって変わりますので、市区町村の介護保険担当課に確認してみてください。
Q. 預貯金が要件を少し超えています。対象になりませんか。
A. 預貯金等の資産要件を超えている場合、その時点では対象外になります。ただし、施設の費用を支払って預貯金が要件内まで減った場合は、その後に申請して認定を受けられる可能性があります。あきらめずに、状況が変わったタイミングで市区町村に相談してみてください。
Q. 申請を忘れていました。さかのぼって受け取れますか。
A. 高額介護サービス費は、権利の時効が 2 年 です(介護保険法 第 200 条)。2 年以内の分であれば、さかのぼって申請できます。負担限度額認定は原則として申請した月の初日からの適用になりますので、こちらは早めの申請が大切です。
Q. 介護付き有料老人ホームに入っていますが、何か軽減はありますか。
A. 食費・居住費の負担限度額認定は対象外ですが、介護サービスの自己負担分には高額介護サービス費が適用されます。また、医療費とあわせた年間の負担が大きい場合は、高額医療・高額介護合算療養費という別の制度の対象になることもあります。
Q. 住民税の課税世帯ですが、負担を軽くする方法はありませんか。
A. 負担限度額認定は対象外になりますが、高額介護サービス費は課税世帯でも上限(課税所得に応じて月 44,400 円〜140,100 円)があります。このほか、医療費控除や、社会福祉法人による利用者負担軽減、自治体独自の助成制度が使える場合もあります。お住まいの自治体の介護保険担当課に確認してみてください。
まとめ
介護費用の軽減は、「介護サービス代」と「食費・居住費」に分けて考えると整理しやすくなります。
- 高額介護サービス費 は、介護サービスの自己負担に所得別の月額上限を設ける制度で、課税世帯でも対象になります
- 負担限度額認定(補足給付) は、特養などの食費・居住費を軽くする制度で、非課税世帯+資産要件が条件になります
- 負担限度額認定が効くのは特養・老健・介護医療院・ショートステイだけで、有料老人ホームやサ高住は対象外です
- 2026 年 8 月 1 日から負担限度額の一部が変わります(食費の基準費用額の引き上げ、第 3 段階の負担限度額の引き上げなど)
- 高額介護サービス費は 2 年以内ならさかのぼって申請できます
費用の不安は、施設選びの選択肢を狭めてしまいがちです。軽減制度まで含めて見通しを立てれば、選べる範囲が変わってくることも少なくありません。お気軽にご相談ください。
参考文献・公的資料
- 厚生労働省 介護保険最新情報 Vol.1252「高額介護(介護予防)サービス費の概要について」(2026年6月閲覧)
- 厚生労働省 介護保険最新情報 Vol.1280「令和6年8月からの特定入所者介護(予防)サービス費の見直し」(2026年6月閲覧)
- 厚生労働省 介護保険最新情報 Vol.1481(令和8年厚生労働省告示第88号、令和8年8月1日施行)(2026年6月閲覧)
- 介護保険法 第51条の3(特定入所者介護サービス費)、第200条(時効)(e-Gov 法令検索、2026年6月閲覧)
