費用が払えなくなっても、すぐに退去とは限りません。まず早めに相談し、使える制度を確かめ、必要なら費用の低い施設へ住み替える、という順で見直します。

中川 優美Yumi Nakagawa
払えなくても、すぐ退去とは限らない
費用の支払いが厳しくなると、「すぐに追い出されてしまうのでは」と不安になるご家族は多いものです。滞納したその日に当然に退去となるものではありません。ただし、契約書に定められた催告や契約解除の手続きが進む可能性はあります。だからこそ、滞納する前、または滞納した直後に施設へ相談すること が大切です。
なお、滞納したときの対応、身元引受人・連帯保証人への請求、退所の手続きなどは、施設の類型(特養などの介護保険施設か、有料老人ホームか)によって異なります。まずは契約書・重要事項説明書・料金表で、滞納したときの対応と契約解除の条件を確認してください。
そのうえで、次の 3 つの方向で見直していきます。
| 見直しの方向 | 内容 |
|---|---|
| まず相談する | 施設の相談窓口・ケアマネジャー・市区町村の窓口に、早めに事情を伝える |
| 使える制度を確かめる | 負担限度額認定・高額介護サービス費・社会福祉法人の軽減など |
| 施設を見直す | いまの施設で費用を下げられないか確認し、それでも足りなければ住み替えを考える |
順番に見ていきましょう。焦らずに、ひとつずつ確かめていけば、住まいを続ける道が見えてくることは少なくありません。
なぜ費用が足りなくなるのか
入居したときは払えていた費用が、途中で厳しくなるのには、いくつかの理由があります。
- 要介護度や利用する介護サービスが変わり、介護保険の自己負担や保険外サービスの費用が増えた
- 医療費・薬代・日用品費などが増えた(有料老人ホームなどでは、おむつ代が別途必要になる場合もあります)
- 預貯金を取り崩して払ってきたが、貯えが減ってきた
- 年金だけでは月々の費用に届かず、少しずつ持ち出しが続いている
こうした変化は、介護が長くなれば誰にでも起こりうることです。ご家族の備えが足りなかったということではありません。利用できる可能性のある制度や相談窓口がありますので、順に確かめていきましょう。
まずやること
支払いが厳しくなりそうだと感じたら、いちばん大切なのは、放置せずに早めに相談することです。
滞納を放置しない
「言い出しにくい」と支払いを止めたまま放置すると、施設との関係がこじれ、退去につながりやすくなります。反対に、払えないと分かった時点で正直に伝えれば、支払い方法の相談や、使える制度の案内につながることがあります。
相談する相手
まずは、次のような相手に相談してみましょう。
- 施設の相談窓口(施設長・生活相談員・入居担当者など、施設によって呼び方が異なります)
- 担当のケアマネジャー(いる場合)
- 市区町村の介護保険担当課
- 地域包括支援センター(高齢者の相談を無料で受ける公的な窓口です)
役割は分かれています。制度の正式な判定は市区町村、料金や支払い方法は施設 に確認します。ケアマネジャーには、状況の整理や申請の方法を相談できます。
あわせて、請求書と料金表を照らし合わせて、何がいくら増えたのかを確かめておく と、相談がぐっと具体的になります。
これらの相手は、費用の相談に慣れています。ひとりで抱え込まず、まずは事情を話すところから始めて大丈夫です。
使える公的な制度
費用の負担を軽くする公的な制度がいくつかあります。当てはまるものがないか、順に確かめてみましょう。制度の全体像は、別記事「高額介護サービス費と負担限度額認定」でも詳しく解説しています。
負担限度額認定(食費・居住費の軽減)
所得・課税の状況と資産の要件を満たし、市区町村から認定を受けた方 について、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院・ショートステイの食費と居住費が軽くなります。正式には「特定入所者介護サービス費(補足給付)」という制度です。介護付き・住宅型の有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅の家賃・食費は、通常この制度の対象になりません。
高額介護サービス費(介護サービスの自己負担の上限)
ひと月の介護保険サービスの利用者負担が、所得区分別の上限を超えた場合に、市区町村への申請により超えた分が支給される制度です。上限は世帯の所得区分によって複数に分かれており、課税世帯でも一律に月 44,400 円ではありません。課税所得が高い区分では、44,400 円より高い上限が適用されます(区分ごとの上限は「高額介護サービス費と負担限度額認定」で整理しています。出典: 厚生労働省 介護保険最新情報 Vol.1252)。
対象になるのは、介護保険サービスの利用者負担分だけ です。次の費用は通常含まれません。
- 施設の食費・居住費・家賃・管理費
- 日常生活費、おむつ代などの実費
- 介護保険外のサービス
- 区分支給限度基準額を超えて利用した分の全額自己負担
老人ホームの月額全体に上限が設けられる制度ではない、という点にご注意ください。手続きの方法は自治体にご確認ください。
社会福祉法人の軽減・その他の助成
市区町村が制度を実施していて、対象のサービスを提供する社会福祉法人が軽減を申し出ている場合に、生計が困難と認められた方の利用者負担が軽くなることがあります。何がどのくらい軽減されるかは、市区町村と事業者にご確認ください。
このほか、医療と介護の自己負担を合算して年間の上限を超えた分が支給される「高額医療・高額介護合算療養費」もあります。ただしこれは、年間の施設費用の全体を合算できる制度ではありません(対象になるのは医療保険・介護保険の自己負担です)。
自治体によっては独自の制度が設けられている場合もあります。制度の名称・対象になる方・対象になる施設・申請の時期を、自治体に確認してみてください。
医療費が多い年は、医療費控除の対象になる費用もあります。ただしこれは税の控除であって、費用そのものを給付する制度ではありません。詳しくは「介護費用と医療費控除」で整理しています。
複数の制度を使える場合がありますが、給付額の控除やあわせて使うときの調整があります。市区町村や保険者に確認してください。
費用の低い施設への住み替え
住み替えを考える前に、まず いまの施設で費用を下げられる方法がないか を確認します。料金プランの変更、契約内容の見直し、使っていないサービスの整理などで、下げられる余地があるかもしれません。多床室のある施設であれば、ご本人の状態と空いている居室の状況をふまえて、居室の変更を相談できる場合もあります。
そのうえで、それでも費用が足りない場合は、より費用を抑えやすい施設への住み替えを考えます。
一般的に、月々の費用を抑えやすいのは特別養護老人ホーム(特養)です。介護保険制度上の施設で、要件を満たして認定を受ければ負担限度額認定で食費・居住費も軽くなります。ただし、原則として要介護 3 以上が対象で、入居を待つ期間がある点には留意が必要です。特養に申し込みながら、いまの施設で支払いを続けるための方法や、ほかの候補も並行して検討する のが現実的です。特養と介護付き有料老人ホームの違いは、別記事「特養と介護付き有料老人ホームの違い」で整理しています。
住み替えを比べるときは、住み替えたあとの月額だけでなく、移るために必要な初期費用と、いまの施設から返還される金額まで含めて 比較してください。
また、住み替えはご本人にとって暮らしの環境が変わることでもあります。ご本人の意思を確認したうえで、環境が変わることの負担と、介護・医療を切れ目なく続けられるか を、ケアマネジャーや相談員とご一緒に考えることをおすすめします。退去や住み替えの進め方は、別記事「老人ホームから退去を求められたら」も参考になります。
なお、使える制度と住み替えを考えても暮らしが成り立たない場合は、生活保護の利用も選択肢のひとつです。生活保護を受けながら入居できる施設もあります。滞納が大きくなる前に福祉事務所へ相談し、いまの施設で続けられるのか、転居が必要かも含めて確認してください。 ためらわずに、福祉事務所や無料の相談窓口に相談してみてください。
よくあるご質問
Q. 費用を滞納すると、すぐに退去になりますか。
A. 滞納したその日に当然に退去となるものではありません。ただし、契約書に定められた催告や契約解除の手続きが進む可能性はあります。滞納したときの対応は施設の類型や契約によって異なりますので、まず契約書・重要事項説明書・料金表で、滞納したときの対応と契約解除の条件を確認してください。大切なのは、払えないと分かった時点、できれば滞納する前に施設へ相談することです。事情を伝えれば、支払い方法の相談や、使える制度の案内につながることがあります。放置がいちばんよくありません。
Q. 収入が少ないと、どんな制度が使えますか。
A. 所得・課税の状況、資産、利用している施設やサービスに応じて、使える制度が異なります。要件を満たして市区町村の認定を受ければ、特別養護老人ホームなどの食費・居住費を軽くする負担限度額認定の対象になることがあります。介護保険サービスの利用者負担には、所得区分別の月額上限を設ける高額介護サービス費があります(上限は課税世帯でも一律ではありません)。このほか、社会福祉法人による利用者負担の軽減や、自治体独自の助成が使える場合もあります。まずは市区町村の介護保険担当課やケアマネジャーに相談してみてください。
Q. 貯金が尽きても、施設で暮らし続けられますか。
A. 使える制度を組み合わせても費用が足りない場合は、より費用を抑えやすい施設への住み替えや、生活保護の利用が選択肢になります。生活保護を受けながら入居できる施設もあります。どの方法が合うかは状況によって異なりますので、ケアマネジャーや福祉事務所、無料の相談窓口とご一緒に整理していくことをおすすめします。
Q. 介護付き有料老人ホームでも、食費の軽減は受けられますか。
A. 食費・居住費を軽くする負担限度額認定は、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院・ショートステイが対象で、介護付き有料老人ホームや住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅は対象外です。介護付き有料老人ホームでも、介護サービス費については高額介護サービス費の対象になります。費用を大きく抑えたい場合は、対象になる施設への住み替えも選択肢のひとつです。
まとめ
老人ホームの費用が払えなくなりそうなときは、あわてて結論を出す前に、次の順で見直してみてください。
- 放置せず、施設の相談員・ケアマネジャー・市区町村の窓口に早めに相談します
- 負担限度額認定・高額介護サービス費・社会福祉法人の軽減など、使える制度を確かめます
- それでも足りなければ、費用を抑えやすい施設への住み替えや、生活保護の利用を考えます
費用の心配は、ご家族だけで抱え込みやすいものです。ですが、相談できる窓口や使える制度は用意されています。どこから手をつければよいか迷われたときは、お気軽にご相談ください。ふれあい入居サポートセンターでは、社会福祉士などの専門の相談員が無料でご相談を承っています。
参考文献・公的資料
- 厚生労働省 介護保険最新情報 Vol.1252(高額介護サービス費の上限額、2026 年 6 月確認)
- 厚生労働省 介護保険最新情報 Vol.1280(負担限度額認定の所得段階・資産要件、2026 年 6 月確認)
- 厚生労働省「社会福祉法人等による利用者負担軽減制度」関連通知
- 金額・区分は改定の時点や地域、世帯の状況によって異なります。ご自身が使える制度は市区町村の介護保険担当課・福祉事務所にご確認ください。
