罪悪感は消そうとしなくて構いません。ただ、中身を分けて見ると、そのうちいくつかは事実の確認や工夫で軽くできます。

中川 優美Yumi Nakagawa
まず知っておきたいこと
「自分は親を見捨てようとしているのではないか」——そう感じているご家族に、これまで何度もお会いしてきました。
先にお伝えしておきたいことが2つあります。
1つめは、罪悪感を消す必要はないということです。 その気持ちは、親御さんを大切に思っているから生まれます。無理に打ち消そうとすると、かえって苦しくなります。
2つめは、そのままにしておくと判断が止まるということです。 決めきれない時間が長引くと、その間に介護している方が消耗し、ご本人の状態も変わっていきます。結果として、選べたはずの選択肢がなくなることがあります。
ですから、この記事でお伝えしたいのは「罪悪感をなくす方法」ではありません。罪悪感を持ったままでも判断を前に進めるための、見方の整理です。
そしてもうひとつ。情報を集めることと、入居を決めることは別のことです。 見学だけしてみる、話を聞くだけ、という進め方で構いません。決めなくてよいと思うと、動きやすくなることがあります。
罪悪感の中身を分ける
「罪悪感」とひとことで言っても、実際にはいくつかの別々の気持ちが混ざっています。分けて見ると、それぞれにできることが変わります。
| 中身 | どんな気持ちか | できること |
|---|---|---|
| 1. 本人に申し訳ない | 慣れた家から引き離してしまう | 入居後の関わり方で応える(後述) |
| 2. 周囲の目 | 親戚や近所に何と思われるか | 事実を短く伝える。距離を取ってよい |
| 3. 見捨てたという自己評価 | 自分は親不孝だ | 在宅を続けた場合の負担も並べて見る |
| 4. 本人に責められた | 「捨てるのか」と言われた | 言葉の下にある不安を聞く |
| 5. 過去の約束 | 「施設には入れないで」と言われていた | 約束で何を守ろうとしていたかを考える |
ご自身の気持ちが、どれに近いでしょうか。複数当てはまっても構いません。 分けて書き出してみると、「実は2の周囲の目がいちばん重い」というように、正体が見えてくることがあります。
とくに 2の周囲の目は、実際に介護をしていない方の言葉であることが多いものです。日々の負担も、限界に近づいている状況も見えていません。その言葉を、判断の重さと同じ重さで受け取る必要はありません。
「かわいそう」を両側から見る
判断が止まってしまう大きな理由は、「施設に移す負担」だけが見えていて、「在宅を続ける負担」が見えていないことにあります。
天秤にかけるのは、次の両方です。
| 施設に移った場合 | 在宅を続けた場合 |
|---|---|
| 慣れた家を離れる | 慣れた家で過ごせる |
| 環境の変化が負担になることがある | 環境は変わらない |
| 職員が交代で関わる(夜間も含む) | 介護する方に負担が集中する |
| 家族が「介護する人」から「家族」に戻れることがある | 家族が介護者であり続ける |
| 費用がかかる | 在宅サービスの費用がかかる |
| 医療や介護の体制が整うことがある | 急変時の対応に不安が残ることがある |
どちらにも良い面と負担があります。 片側だけを見て「かわいそう」と判断するのは、実は正確ではありません。
とくに見落とされやすいのが、介護している方が倒れてしまうリスクです。介護する方が体を壊せば、ご本人の暮らしも守れなくなります。それは「親孝行」の結果としては、望ましいものではないはずです。
もうひとつお伝えしておきたいことがあります。限界を超えた在宅介護は、意図せず不適切な関わりにつながることがあります。 疲れ果てた末に強い言葉が出てしまった、手が出そうになった——そうした話を伺うことがあります。そうなる前に手を打つことは、逃げではありません。
こうした状態に近づいていると感じたときの相談先は、お住まいの市区町村(高齢者虐待の担当課)と地域包括支援センターです。高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律では、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した方のうち、その高齢者の生命または身体に重大な危険が生じている場合は、市区町村に通報しなければならないとされています。それ以外の場合も、市区町村に通報するよう努めることとされています(同法第7条)。
これは介護しているご家族を罰するための窓口ではありません。 同じ法律は、養護者(介護しているご家族)への相談・指導・助言を市区町村の役割として定めています(同法第6条)。さらに、養護者の負担を軽くするために緊急の必要があると市区町村が認めたときは、ご本人が短期間ケアを受けるための居室を確保する措置を講じるものとされています(同法第14条第2項)。追い詰められる前に使っていただける窓口です。ご自身のこととして相談していただいて構いません。
在宅を続けるか施設にするかの判断軸は、別記事「在宅を続けるか、施設にするか|判断するときの 5 つの見方」で整理しています。
なお、罪悪感を打ち消すために「施設のほうがご本人のためだ」と思い込むのも、また違います。 どちらかに寄せて考えを固めるのではなく、両側を並べたまま見ることが大切です。
本人の意思との向き合い方
ご本人の意思は、何より大切にすべきものです。 そのうえで、いくつか整理しておきたい点があります。
嫌がる理由を具体的に聞く
「嫌だ」の中身は人によって違います。
- 知らない場所への不安
- 家族に見捨てられるという気持ち
- 費用の心配(子に負担をかけたくない)
- 自由がなくなるという思い込み
- 施設についての古いイメージ
理由によって、できることが変わります。 費用の心配であれば具体的な数字を示せます。イメージの問題であれば、見学や体験入居で変わることがあります。
親御さんが入居を拒まれるときの進め方は、別記事「親が施設入居を拒むとき|家族ができる進め方と考え方」で詳しくお伝えしています。
意思を示せる状態かを確かめる
ご本人が理解して意思を示せる状態かどうかは、確かめてください。判断が難しくなっている場合でも、「本人は分からないから家族が決める」ではありません。 ご本人がこれまで何を大切にしてきたか、その価値観に沿って考えることになります。
判断が難しい状態が続くときは、成年後見の仕組みを検討することもあります(別記事「成年後見制度と老人ホームの入居・契約」)。
家族の希望も、消さない
ご本人の希望を大切にすることと、ご家族が限界を我慢することは別です。「本人が嫌がっているから」だけで在宅を続けると、共倒れになります。
ご本人の希望と、ご家族が続けられる範囲。その両方を並べて、担当のケアマネジャーに伝えてください。 どちらかを消して伝えると、実情に合わない計画になります。
「施設には入れないで」の約束
これは、とくに重く残る種類の罪悪感です。
思い出していただきたいのは、その約束は多くの場合、お互いに元気だったときのものだということです。当時、いまの状態を具体的に想像できていた方はほとんどいません。
考えてみていただきたいのは、その約束で、親御さんが何を守ろうとしていたのかです。
| 守ろうとしていたもの | 施設に移っても守れるか |
|---|---|
| 家という場所 | 守れない |
| 家族に大切にされること | 守れる(面会、様子を聞く、行事への参加) |
| 見捨てられないという安心 | 守れる(関わり続けることで) |
| 知らない人に囲まれたくない | 施設選びと慣らし方で和らげられる |
| 家族に迷惑をかけたくない | 守れる(むしろ施設のほうが叶うことも) |
場所そのものより、「大切にされること」を守ろうとしていた——そう受け止められる場合、守り方は施設に移っても残ります。
最後の項目も見落とされやすい点です。「子に迷惑をかけたくない」と言っていた方が、実際にはご家族が疲れ果てている姿を見て苦しんでいることがあります。
入居後にできること
罪悪感の多くは、入居後の関わり方で軽くなります。 「入れて終わり」ではないと分かると、決断の重さが変わります。
- 面会に通う … 頻度より続けることです。行けないときの工夫もあります(別記事「老人ホーム入居後の面会」)
- これまでの暮らしを施設に伝える … 職員はご本人の「今」しか知りません。好きだった食べ物、長年の習慣、仕事や役割。ご家族しか知らないことです
- ケアプランの話し合いに関わる … 施設に入っても、暮らし方に関われます(別記事「サービス担当者会議と家族の関わり方」)
- 困りごとを施設に伝える … 我慢せず伝えることが、ご本人の暮らしを良くします
そして、ご家族自身のことも大切にしてください。
眠れない日が続く、食欲がない、何をしても気が晴れない、朝起きるのがつらい——こうした状態が長く続いているときは、我慢せずに医療機関にご相談ください。 介護をしている方が体調を崩すことは珍しくありません。
負担を減らす方法については、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談すると、一緒に考えてもらえます。地域によっては、同じ立場の方が集まる家族会があります。同じ経験をした方の話を聞くだけで、気持ちが軽くなることがあります。
仕事との両立で限界を感じているときは、別記事「仕事と介護を両立するには|介護離職を避ける制度と進め方」もご覧ください。
よくあるご質問
Q. 親を施設に入れるのは、やはり親不孝でしょうか。
A. そうは考えていません。ご家族だけで抱え込んだ結果、介護する方が体を壊したり、関係が険しくなったりすることがあります。専門の職員が交代で関わることで、ご本人の暮らしが安定することもあります。ただし、罪悪感を打ち消すために「施設のほうがよい」と思い込むのも違います。 在宅を続けた場合と施設に移った場合の両方について、ご本人とご家族の暮らしがどうなるかを並べて見てください。
Q. 本人が嫌がっているのに進めてよいのでしょうか。
A. ご本人の意思は何より大切です。ただ、嫌がっているからといって在宅を続けることが常に正しいわけでもありません。嫌がる理由を具体的に聞いてみてください。 知らない場所への不安なのか、見捨てられるという気持ちなのか、費用の心配なのか。理由によってできることが変わります。ご本人が理解して意思を示せる状態かも確かめ、難しい場合はご本人の価値観に沿って考えることになります。
Q.「施設には入れないで」と約束していました。
A. その約束は、多くの場合お互いに元気だったときのものです。約束を破ったと責める前に、その約束でご本人が何を守ろうとしていたのかを考えてみてください。家で最期までという場所の希望なのか、家族に大切にされたいという気持ちなのか。後者であれば、施設に移っても守ることができます。面会に通う、生活の様子を伝えてもらう、行事に参加する。守り方は場所だけではありません。
Q. 親戚から「かわいそう」と言われてつらいです。
A. 実際に介護をしていない方ほど、そうした言葉を口にしやすいものです。日々の負担も、限界に近づいている状況も見えていないためです。返すとしたら、事実を短く伝えるにとどめてよいと思います。夜に何回起きるのか、通院に何時間かかるのか。そのうえで「では手伝っていただけますか」と返すと、話が具体的になります。それでもつらいときは、距離を取ることも選択のひとつです。
Q. 気持ちが落ち込んだ状態が続いています。
A. 眠れない日が続く、食欲がない、何をしても気が晴れない、朝起きるのがつらいといった状態が長く続いているときは、我慢せずに医療機関にご相談ください。 介護をしている方が体調を崩すことは珍しくありません。担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談すると、ショートステイなど負担を減らす方法を一緒に考えてもらえます。地域に家族会があることもあります。
まとめ
罪悪感との向き合い方について、大切な点を振り返ります。
- 罪悪感は消さなくて構いません。大切に思っているから生まれるものです
- ただ、そのままにすると判断が止まり、選べたはずの選択肢がなくなることがあります
- 情報を集めることと、決めることは別です。見学だけでも構いません
- 罪悪感の中身を5つに分けてみてください。それぞれにできることが違います
- 「在宅を続ける負担」も並べて見ます。介護する方が倒れれば、ご本人の暮らしも守れません
- ご本人が嫌がるときは、理由を具体的に聞きます。理由によってできることが変わります
- 「施設には入れないで」の約束は、何を守ろうとしていたのかを考えます。場所以外の守り方があります
- 罪悪感の多くは、入居後の関わり方で軽くなります
- 落ち込みが長く続くときは、我慢せず医療機関へ
決めきれずにいる時間そのものが、いま苦しいのだと思います。ご家族だけで抱え込まず、お気軽にご相談ください。決めなくても構いません。
参考文献・公的資料
- 厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」— 本人の意思の尊重と、判断が難しい場合の考え方(2026年8月閲覧)
- 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号)第7条第1項(生命または身体に重大な危険が生じている場合の市町村への通報義務)・第2項(それ以外の場合の努力義務)・第3項(守秘義務の規定は通報を妨げるものと解釈してはならない)(e-Gov 法令検索、2026年9月確認)
- 同法 第6条(市町村による高齢者および養護者に対する相談、指導及び助言)、第14条第1項(養護者の負担の軽減のための相談・指導・助言その他必要な措置)・第2項(緊急の必要があると認める場合に高齢者が短期間養護を受けるための居室を確保する措置)(e-Gov 法令検索、2026年9月確認)
- 厚生労働省「介護休業制度」— 仕事と介護の両立支援に関する制度(2026年8月閲覧)
