仕事と介護は、国の両立支援制度と介護サービスを組み合わせることで、両立をめざせます。まず辞めない、が大切な出発点です。

中川 優美Yumi Nakagawa
まず「すぐ辞める」を急がない
親の介護が急に始まると、「仕事を続けるのは無理かもしれない」と感じる瞬間があります。病院からの呼び出し、手続きの山、先の見えない不安。そのなかで「辞めれば楽になるのでは」という考えがよぎるのは、無理のないことです。
ただ、これまで葛飾相談室でお会いしてきたご家族の歩みを思い返しても、介護が始まったばかりの時期に仕事を辞めるという結論を急ぐと、あとで選択肢が狭まってしまうことがあります。介護は、始まりの慌ただしさが少し落ち着くと、サービスや制度を使って生活を組み立て直せる場面が出てきます。まず知っていただきたいのは、働きながら介護するための仕組みが、国の制度としてそろっているということです。
この記事では、その制度の中身と使い方を順に見ていきます。焦って大きな決断をする前に、使える手立てを一度並べてみることから始めていきましょう。
仕事を辞める前に知っておきたいこと
介護のために仕事を辞めること(介護離職)は、目の前の負担を減らす手段に見えます。ただ、辞める前に頭の片隅に置いておきたいことがいくつかあります。
- 介護は、先が読みにくく長く続くことがある。数か月で落ち着く場合もあれば、何年も続く場合もあります。辞めたあとに介護が長引くと、収入のない期間も長くなります
- 一度辞めると、同じ条件で戻るのは難しいことが多い。とくに年齢を重ねてからの再就職では、以前と同じ待遇の仕事が見つかりにくい傾向があります
- 収入が途切れることが、介護そのものの選択肢を狭める。使えるサービスや施設は費用と結びついています。収入が保たれているほうが、選べる幅は広がります
- 仕事が、介護から少し離れられる時間になることもある。すべてを介護に注ぐより、働く時間があるほうが気持ちの張りを保てる、という方もいます
国も、介護を理由に仕事を辞めずにすむよう、両立支援に力を入れています。2025年(令和7年)4月からは、介護に直面した従業員に会社が制度を個別に知らせる仕組みも始まりました。「辞めるしかない」と思い込む前に、まず制度を使ってみる。その順番をおすすめしています。
使える両立支援の制度
働きながら介護する人のために、育児・介護休業法という法律で、いくつかの制度が定められています。大きく分けると、「まとまった休み」「短い休み」「働き方の調整」の3つの方向があります。まず全体を表で見てみましょう。
| 制度 | どんなときに使うか | おおまかな内容 |
|---|---|---|
| 介護休業 | まとまった時間が必要なとき | 対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分けて取れます |
| 介護休暇 | 通院の付き添いなど短い用事 | 対象家族1人なら年5日、2人以上なら年10日まで(時間単位でも取得可) |
| 所定外労働の制限 | 残業を減らしたいとき | 請求すれば、残業(所定の時間を超える労働)を免除してもらえます |
| 時間外労働の制限 | 残業を一定内に抑えたいとき | 1か月24時間・1年150時間を超える時間外労働をさせないよう請求できます |
| 深夜業の制限 | 夜の勤務を避けたいとき | 深夜(午後10時から午前5時まで)の労働を制限してもらえます |
| 短時間勤務等の措置 | 勤務時間そのものを調整したいとき | 短時間勤務・時差出勤などのいずれかを、事業主が用意します |
いずれも、負傷や病気などで2週間以上にわたり常時介護が必要な家族がいる場合に使えます。対象となる家族は、配偶者(事実婚を含みます)、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母です。以下、よく使う3つの方向をもう少しくわしく見ていきます。
介護休業(まとまった休み)
介護休業は、対象家族1人につき 通算93日まで、3回まで分けて 取れる休みです。退院直後の慌ただしい時期にまとめて取り、少し落ち着いてからまた取る、という使い方もできます。
期間を定めて働いている方(契約社員やパートなど)でも、休業を始める予定日から93日を過ぎてさらに6か月の間に契約が終わることが明らかでなければ、対象になります。ただし、勤続1年未満の方などは、労使協定によって対象外とされていることがあります。自分が対象になるかどうかは、勤務先の担当窓口に確かめてみてください。
介護休暇(短い休み)
介護休暇は、通院の付き添いやケアマネジャーとの面談、役所の手続きなど、短い用事のための休みです。対象家族が1人なら 年5日、2人以上なら 年10日 まで取れます。1日単位のほか、時間単位 でも取れるので、「午前中だけ抜けて手続きに行く」といった使い方ができます。
2025年4月からは、勤続6か月未満の方を対象から外す扱いがなくなり、より取りやすくなりました。急な用事の多い介護の初期に、心強い制度です。
働き方を調整する制度
休みを取るだけでなく、働き方そのものを調整する制度もあります。
- 所定外労働の制限。請求すれば、残業を免除してもらえます
- 時間外労働の制限。1か月24時間、1年150時間を超える時間外労働をさせないよう請求できます
- 深夜業の制限。深夜(午後10時から午前5時まで)の労働を制限してもらえます
- 短時間勤務等の措置。短時間勤務、フレックスタイム、時差出勤、介護サービス費用の助成のいずれかを、事業主が用意します。対象家族1人につき、利用を始めた日から連続する3年以上の間に、2回以上利用できるようになっています
これらを組み合わせると、「残業をなくして定時で帰り、夕方の介護に間に合わせる」といった働き方が現実的になります。
介護休業給付金というお金の支え
介護休業を取るとき、多くの方が気にされるのがお金のことです。休業中の給料を支払うかどうかは勤務先の定めにより、無給になることも少なくありません。そこで支えになるのが、雇用保険から受け取れる介護休業給付金 です。
給付金の額は、おおよそ次のように計算されます。
休業を始める前の賃金日額 × 休業日数 × 67%
つまり、休む前のお給料のおよそ3分の2にあたる額が目安になります。対象家族1人について、93日を限度に、3回まで分けて受け取れます。
受け取るにはいくつかの要件があります。おもなものは次のとおりです。
- 介護休業を始めた日の前2年間に、雇用保険の被保険者だった期間が12か月以上あること
- 休業している期間に、就労した日数が一定以下であること(働きすぎるとその月は対象になりません)
- 休業中に、休業前の8割以上の賃金が支払われていないこと
細かい要件や金額は、勤務先やお近くのハローワークで確認できます。「休むと収入がゼロになる」と思って諦める前に、この給付金があることを知っておいてください。
制度を使うまでの進め方
制度があると分かっても、「どこから動けばいいのか」で止まってしまいがちです。おおまかな進め方は、次のようになります。
- 介護の見通しを整理する。まず地域包括支援センターやケアマネジャーに相談し、どのくらいの介護が必要になりそうか、どんなサービスが使えるかを整理します。ここが定まると、仕事をどう調整すべきかも見えてきます
- 勤務先の担当窓口に相談する。人事や総務など、勤務先で制度を扱う窓口に、介護に直面したことを伝えます。2025年4月からは、申し出た従業員に会社が制度を個別に知らせ、相談に応じることが義務づけられました。以前より相談しやすくなっています
- どの制度をどう使うか組み立てる。まとまった休みが要るなら介護休業、短い用事なら介護休暇、日々の働き方を整えるなら残業の免除や短時間勤務、というように、状況に合わせて選びます
- 介護の体制を整えながら、働き方を続ける。ケアマネジャーが組んだケアプランでサービスを使いながら、調整した働き方で仕事を続けます。認定を受けてサービスを使い始めるまでの流れは、別記事「介護保険サービスを使い始めるまでの流れ」にまとめています
介護の入口全体の段取りを知りたい方は、別記事「親の介護はじめての30日」もあわせてご覧ください。仕事と介護の両輪を、どこから回し始めるかの参考になります。
働き方に合わせた使い分け
同じ両立でも、置かれた状況によって、どの制度を軸にするかは変わってきます。よくある場面を3つ挙げておきます。
退院直後で時間が要る
親が退院したばかりで、当面まとまった時間が必要なときは、介護休業が軸になります。93日を3回に分けられるので、退院直後の体制づくりに一度使い、落ち着いたら仕事に戻り、状態が変わったらまた使う、といった配分ができます。この間に、ケアマネジャーと在宅サービスを整えておくと、休業明けの働き方が安定します。退院までの動き方は、別記事「退院期日が迫る場合の施設選び」もあわせてご覧ください。
通院の付き添いが不定期
在宅の介護がある程度回りはじめ、あとは通院の付き添いや手続きが不定期に入る、という段階では、介護休暇が使いやすい制度です。年5日(対象家族2人以上なら10日)を時間単位でも取れるので、「午前だけ抜けて受診に付き添う」といった細かな使い方ができます。あわせて残業の免除を請求しておくと、夕方の介護に間に合わせやすくなります。
遠くに住む親を介護する
離れて暮らす親を介護する場合は、行き来にまとまった時間が要ります。介護休業でまとまった帰省の時間をつくりつつ、現地のケアマネジャーや地域包括支援センターと連絡を取り合って、離れていても回る体制を整えるのが現実的です。遠距離での介護や施設探しの進め方は、別記事「遠距離・疎遠の家族による施設探し」でくわしくお伝えしています。
よくあるご質問
Q. 介護休業は何日くらい取れますか。分けて取ることはできますか。
A. 介護を必要とする対象家族1人につき、通算93日 まで取れます。3回まで 分けて取ることもできるので、退院直後にまとめて取り、少し落ち着いてからまた取る、といった使い方もできます(育児・介護休業法)。
Q. 介護休業中は給料が出ますか。
A. 休業中の給料を支払うかどうかは勤務先の定めにより、無給になることも多いです。ただし雇用保険から 介護休業給付金 が受け取れる場合があります。金額の目安は、休業前の賃金日額に休業日数をかけた額のおよそ 67% です。要件があるため、勤務先やハローワークにご確認ください。
Q. パートや契約社員でも介護休業は取れますか。
A. 取れる場合があります。期間を定めて働いている方でも、休業開始予定日から93日を過ぎてさらに6か月の間に契約が終わることが明らかでなければ、対象になります。ただし労使協定で、勤続1年未満の方などが対象外とされていることもあります。まずは勤務先の担当窓口に確認してみてください。
Q. 介護休暇と介護休業は何が違いますか。
A. 介護休業がまとまった期間の休みなのに対し、介護休暇は通院の付き添いや手続きなどのための 短い休み です。対象家族が1人なら年5日、2人以上なら年10日まで、1日単位のほか 時間単位 でも取れます。急な用事に合わせて使いやすい制度です。
Q. 会社に親の介護のことを言い出しにくいです。
A. 言い出しにくいお気持ちは自然なものです。2025年4月からは、介護に直面したことを申し出た方に、会社が制度を個別に知らせたり相談に応じたりすることが 義務づけられました。以前より相談しやすい環境が整いつつあります。会社に相談する前に、地域包括支援センターやケアマネジャーに介護の見通しを整理してもらうと、話が進めやすくなります。
まとめ
親の介護が始まったとき、「仕事を辞めるしかない」と思い込む前に、使える制度を並べてみることから始めてみてください。
- 介護が始まったばかりの時期に、辞めるという結論を急がないことが大切です
- 介護休業(通算93日・3回まで)、介護休暇(年5日から10日)、残業の免除や短時間勤務など、働きながら介護する制度がそろっています
- 介護休業の間は、雇用保険から給付金(賃金のおよそ67%が目安)を受け取れる場合があります
- 2025年4月からは、会社が制度を個別に知らせ、相談に応じることが義務づけられ、相談しやすくなりました
- 介護そのものはケアマネジャーや介護サービスに頼り、体制を整えてから働き方を考えても遅くありません
働きながらの介護は、ひとりで抱え込まないことがいちばんの支えになります。介護サービスの使い方から、いずれ施設を考えるときの段取りまで、ふれあい入居サポートセンターでも、社会福祉士などの専門の相談員がご一緒に整理しています。お気軽にご相談ください。
参考文献・公的資料
- 厚生労働省「介護休業制度特設サイト」(介護休業・介護休暇・所定外労働の制限・短時間勤務等の措置。2026年7月閲覧)
- 育児・介護休業法(介護休業93日・3回、介護休暇 年5日/10日・時間単位、対象家族の範囲、2週間以上の常時介護)
- 厚生労働省「育児・介護休業法 令和6年改正/2025年4月施行の内容」(介護休暇の要件緩和、個別の周知・意向確認、雇用環境整備、テレワーク等。2026年7月閲覧)
- 厚生労働省・ハローワーク「介護休業給付の内容及び支給申請手続について」(給付率67%、被保険者期間12か月以上等。2026年7月閲覧)
