親御さんが入居を拒むときは、無理に説得せず、拒む理由を受け止めることが土台です。デイやショートから慣れる、信頼できる人から伝える、本人の希望を軸にする、という進め方が現実的です。

中川 優美Yumi Nakagawa
無理に進めないことが土台
親御さんが入居を拒むとき、まず心に留めておきたいのは、無理に説得して進めることは、基本的にはおすすめできないということです。納得しないまま入居すると、その後の暮らしが落ち着かず、気持ちや体調にも影響することがあります。
この記事の立ち位置をはっきりさせておきます。目的は「拒否をなくすこと」ではありません。ご本人が何を大切にしているかを確かめ、在宅での生活を続ける方法と、施設への入居の両方を検討していく ことです。
ご本人の意思を尊重して時間をかけるのが基本ですが、例外があります。生命や身体に差し迫った危険がある場合は、安全の確保を優先し、地域包括支援センター・市区町村・医療機関などへ緊急に相談してください。
緊急性が低い場合は、結論を急がず段階的に進めます。一方、安全上の危険があるときや退院の期限があるときは、ご本人の意思確認を続けながら、関係する方々で 一時的な生活の場も含めて 検討することになります。
とはいえ、在宅での介護が限界に近づいているのも事実です。ご家族が「なんとかしなければ」と焦るのは自然なことです。緊急性が低い場合は、時間をかけて、次のような順で近づいていきます。
- まず、拒む理由をていねいに聞く
- 日中だけ、短期間だけ、と少しずつ慣れていく
- 信頼している人や専門職に間に入ってもらう
焦らずに進めていくと、ご本人の不安が具体的になり、受け入れられる条件が見えてくることがあります。
なぜ拒むのか
入居を拒む背景には、ご本人なりの理由があります。理由が見えると、対応のしかたも変わってきます。
- 住み慣れた家を離れたくない(長く暮らした家や地域への安心)
- 人の世話になりたくない(まだ自分でやれる、迷惑をかけたくないという思い)
- 知らない場所への不安(どんなところか分からない、なじめるか心配)
- 認知症で、今の状況が分かりにくい(なぜ施設が必要なのか、理解が難しい)
どれも、ご本人にとっては自然な気持ちです。「わがまま」ではありません。まずはその気持ちを否定せずに受け止めることが、話の出発点になります。
ここで気をつけたいのが、拒否を性格や認知症だけの問題と決めつけない ことです。急に態度や様子が変わった場合は、体の状態や薬の影響がないかを医師に相談してみてください。痛みや不調、薬の影響が背景にあることもあります。
また、認知症があることと、判断能力がないことは同じではありません。認知症があっても、ご本人が理解し、伝えられることはあります。分かりやすい説明や、選択肢を絞ることで、意思決定を支えられます。
そのうえで、「何を拒んでいるのか」を具体的に分けて確かめる と、糸口が見えてきます。「施設そのもの」なのか、「いまの時期」なのか、「知らない場所」なのか、「費用」なのかで、対応が変わります。ご本人が落ち着いている時間に、写真や短い説明を使い、質問をひとつずつにして、繰り返し確認してみてください。
避けたい対応
よかれと思ってやったことが、かえって逆効果になることがあります。次のような対応は、できるだけ避けたいものです。
- 頭ごなしに説得する(「もう無理なんだから」と結論だけを押しつける)
- だますように連れて行く(「ちょっと出かけよう」と言って施設に入れる)
- 急かす(「早く決めて」と気持ちが追いつかないうちに進める)
とくに、だますような形で入居させると、ご本人が裏切られたと感じ、その後の信頼関係や、施設での落ち着きに影響することがあります。遠回りに見えても、ご本人の気持ちに沿って進めるほうが、入居後の不安や不信感を減らすことにつながります。
一方で、ご家族が倒れるまでご本人の納得を待つ必要はありません。ご本人の希望と同時に、ご家族が安全に続けられる介護の量・睡眠・仕事・健康状態 も確かめてください。限界が近いときは、ショートステイなどの一時的な支援を使いながら、関係する方々と相談していきましょう。
進め方のヒント
デイやショートから慣れていく
ご本人にとって利用する目的や楽しみがあり、ご本人が受け入れられる場合には、日中だけ通うデイサービスや、数日間だけ泊まるショートステイを試す方法があります。「入居に慣らすため」ではなく、いまの暮らしを支える手段として 使うと考えると、ご本人にも伝えやすくなります。「思っていたより悪くなかった」という体験が、次の一歩につながることもあります。
信頼している人や専門職から伝えてもらう
ご家族が言うと素直に聞けないことでも、ご本人が信頼し、関わってほしいと思っている方(医師やケアマネジャー、長いお付き合いの方など)から話してもらうと、受け止めやすくなることがあります。お願いする役割は「説得」ではなく、ご本人が理解しやすいように説明し、疑問や不安を聞き取ってもらうこと です。第三者が間に入ることで、感情的にならずに話を進めやすくなります。
本人の希望を軸にする
「施設に入れる」ことを目的にするのではなく、「どうすれば安心して暮らせるか」をご本人と一緒に考える形にすると、話が前向きになりやすくなります。見学に一緒に行き、食事や部屋、スタッフの雰囲気を自分の目で見てもらうと、イメージがわいて、気持ちが動くこともあります。
家族のあいだでも足並みをそろえる
きょうだいのあいだで意見が分かれていると、ご本人はますます迷ってしまいます。ご本人の希望、ご家族ができる支援、できない支援、費用の負担 を整理しておきましょう。意見が分かれる場合は、ケアマネジャーなどの専門職を交えて話し合うと、感情的にならずに進めやすくなります。きょうだいでの話し合いの進め方は、別記事「兄弟姉妹で介護分担を決める」も参考になります。
判断能力が下がっている場合
認知症などで、ご本人の判断能力が下がっている場合も、まずは ご本人の意思をできる限り確認する ことが出発点です。言葉だけで理解することが難しい場合は、写真、短時間の見学、食事の体験など、ご本人が実際に確かめられる方法を使いながら意思を確認 していきます。意思を確認できない場合は、これまでの言動などから 推定される意思 を検討します。
「慣れるまで待てばよい」と考えて、ご本人の意思に反して入居させ、退去できない環境に置くことは避けてください。認知症のある方の施設選びは、別記事「認知症で徘徊がある親の施設選び」でも解説しています。
また、ご家族だけで入居の契約を結べるとは限りません。ご本人が契約の内容を理解して決められるか、ご家族などに適切な代理の権限があるかを、施設や専門の機関に確認してください。
判断能力を支える仕組みとして成年後見制度がありますが、これは契約などを法的に支える制度であって、ご本人の拒否を取り除いたり、強制的に入居させたりするための制度ではありません。ご本人がどこまで理解・判断できるか、どの法律行為に支援が必要かを確かめたうえで、中核機関・地域包括支援センター・家庭裁判所の相談窓口・専門職などに相談してみてください。制度の内容は、別記事「成年後見制度と老人ホームの入居・契約」で詳しく解説しています。
よくあるご質問
Q. 親がどうしても施設に入りたがりません。無理にでも入れるべきですか。
A. 無理に入れることは、基本的にはおすすめできません。納得しないまま入居すると、その後の暮らしが落ち着かず、体調や気持ちにも影響することがあります。まずは拒む理由をていねいに聞き、デイサービスやショートステイなど、日中や短期間から慣れていく方法を試すのがおすすめです。ただし、ご本人の安全が保てない状況では、ケアマネジャーや主治医、地域包括支援センターに相談し、専門家を交えて考える必要があります。
Q. 説得しようとすると、けんかになってしまいます。
A. 正面から説得しようとすると、かえって身構えてしまい、話がこじれることがあります。「施設に入ってほしい」と結論から伝えるより、「最近の生活で困っていることはないか」「どうすれば安心して暮らせるか」と、ご本人の気持ちを一緒に考える形から入るとよいでしょう。ご家族だけで話すより、信頼している人や専門職に間に入ってもらうと、話が進みやすくなることもあります。
Q. 認知症で、施設が必要だということ自体を理解してもらえません。
A. 認知症があっても、ご本人が理解し、伝えられることはあります。言葉だけで理解することが難しい場合は、写真、短時間の見学、食事の体験など、ご本人が実際に確かめられる方法を使いながら意思を確認していきます。認知症の方の対応に慣れたデイサービスやショートステイを試す、信頼している医師やケアマネジャーから分かりやすく説明してもらう、といった方法もあります。判断能力が下がっている場合は、ご家族だけで契約を結べるとは限りませんので、契約のしかたも含めて専門家に相談しながら進めることが大切です。
まとめ
親御さんが施設入居を拒むときは、次のことを心に留めて進めてみてください。
- 「拒否をなくすこと」を目的にせず、ご本人が何を大切にしているかを確かめ、在宅を続ける方法と入居の両方を検討します
- 何を拒んでいるのかを具体的に分けて確かめます。急な変化があるときは、体の状態や薬の影響を医師に相談します
- デイやショートを試す、ご本人が信頼する方から説明してもらう、ご本人の希望を軸にする、という方法があります
- ご家族が安全に続けられる介護の量・睡眠・仕事・健康状態もあわせて確かめます。倒れるまで待つ必要はありません
- 判断能力が下がっている場合は、意思をできる限り確認しながら、契約のしかたも含めて専門家に相談します
- 生命・身体に差し迫った危険があるときは、安全の確保を優先し、地域包括支援センター・市区町村・医療機関へ緊急に相談します
親御さんの気持ちと、介護の現実のあいだで揺れるのは、とてもつらいことです。ご家族だけで抱え込まず、専門職と一緒に進めていくことができます。どう声をかければよいか迷われたときは、お気軽にご相談ください。ふれあい入居サポートセンターでは、社会福祉士などの専門の相談員が無料でご相談を承っています。
参考文献・公的資料
- 本記事は入居相談の現場での経験と、厚生労働省・法務省の公開情報(成年後見制度など、2026 年 7 月確認)をもとに整理しています。
- 判断能力や契約に関わる法的な手続きは、市区町村・地域包括支援センター・専門機関にご相談ください。
