在宅の「限界」に、共通の線引きはありません。ご本人の安全・ご本人の意思・介護する方の状態・医療の必要性・費用の続けやすさ、この 5 つを分けて見てください。

中川 優美Yumi Nakagawa
「限界」に共通の線はありません
ご相談のなかで、「どのくらいになったら施設を考えるべきでしょうか」と尋ねられることがあります。何日おきに起こされたら限界、といった共通の線引きはありません。
同じ「夜に 2 回起こされる」でも、支える方が 2 人いる家と、お一人で見ている家とでは、続けられるかどうかがまったく違います。日中にデイサービスを使えているか、家の造りが介護しやすいか、介護する方ご自身に持病があるかによっても変わります。
ですから、ほかの家と比べて「まだ軽いほうだ」と考える必要はありません。 見るべきは、ご自身の家で今、何が起きているかです。
判断するときの 5 つの見方
迷いが長引くとき、多くの場合、いろいろな心配が混ざったまま「もう少し頑張れるだろうか」という 1 つの問いになっています。これを分けてみてください。
| 見る対象 | 確かめること | 赤信号のめやす |
|---|---|---|
| ① ご本人の安全 | 転倒、火の扱い、外に出て戻れない、薬の飲み違い、食事や水分が取れているか | けがや事故が実際に起きた。ひとりにしておくのが怖い時間帯がある |
| ② ご本人の意思と暮らし | どこで、どう過ごしたいと言っているか。人との関わりや楽しみが保てているか | 日中ほとんど誰とも話さない。閉じこもって表情が乏しくなった |
| ③ 介護する方の状態 | 睡眠、持病、仕事との両立、気持ちの落ち込み、ほかの家族との関係 | 続けて眠れない日が続く。持病が悪くなった。気持ちが沈んだまま戻らない |
| ④ 医療の必要性 | 通院の頻度、処置の内容、急に具合が変わる可能性 | 家では対応しきれない処置が増えた。急変が繰り返されている |
| ⑤ 費用の続けやすさ | 在宅で使っているサービス費・医療費と、施設にした場合の見通し | サービスを増やしたいが費用が理由で増やせない |
このうち 1 つでも赤信号が出ていれば、検討を始める理由としては十分です。すべてが赤にならないと動いてはいけない、ということはありません。
そして大事なのは、どこが赤信号かによって、次にやることが変わるという点です。
- 1赤信号が ① 安全 か ③ 介護する方の健康のとき時間の猶予は多くありません。早めに担当のケアマネジャーに伝え、並行して施設の情報も集め始めてください。
- 2赤信号が ④ 医療のときまず主治医や訪問看護に、家でどこまで対応できるかを確認してください。在宅の医療を厚くすることで続けられる場合もあります。
- 3赤信号が ② 暮らしの質のときデイサービスや通いの場を増やすことで変わることがあります。施設を考える前に、まず日中の過ごし方を見直す余地があります。
- 4赤信号が ⑤ 費用のとき使える軽減のしくみを確認しないまま諦めていることがあります。ケアマネジャーや自治体の窓口に、費用面の相談としてお話ししてください。
「まだ頑張れる」の落とし穴
判断が遅れるとき、よくあるのが 「自分がもう少し頑張れば済む」という考え方です。まじめな方ほどこうなります。
けれども、介護する方が倒れてしまうと、ご本人の生活も同時に止まります。 入院した、腰を痛めて動けなくなった、というご相談は珍しくありません。そうなると、選ぶ時間のないまま、その時に空いている場所を選ぶことになります。
つまり、介護する方の状態は「わがまま」ではなく、ご本人の生活を支える土台です。ご本人の状態と同じ重さで見てください。
在宅を続けるために試せること
施設を考える前に、まだ試していないことがないかを確認してみてください。以下は、担当のケアマネジャーに相談することで検討できるものです。
| 困っていること | 検討できること |
|---|---|
| 夜に何度も起こされる | 夜間対応のある訪問介護、泊まりを組み合わせられる小規模多機能型のサービス、ショートステイの定期利用 |
| 日中ひとりにするのが不安 | デイサービスの日数を増やす、通所リハビリ、認知症対応型のデイサービス |
| 入浴の介助がつらい | 訪問入浴、デイサービスでの入浴、浴室への手すり設置や段差の解消 |
| 移動・移乗で腰を痛めている | 福祉用具のレンタル(ベッド・手すり・スロープ等)、住宅改修 |
| 通院に付き添えない | 通院の同行を含めた訪問介護の利用、訪問診療への切り替えの相談 |
| 介護する方が休めない | ショートステイをあらかじめ予定に入れる、レスパイト目的の利用 |
施設を考えたほうがよいとき
一方で、在宅のサービスを組み直しても難しいことがあります。次のような場合です。
- 1見守りが必要な時間が、サービスで埋められる時間を超えている訪問やデイサービスは、来ている間だけの支援です。ひとりの時間に危険がある場合、在宅のサービスを増やしても埋めきれないことがあります。
- 2医療の必要性が家の環境を超えた処置の頻度や内容によっては、常に看護職がいる環境のほうが安全な場合があります。主治医や訪問看護の見立てが判断の材料になります。
- 3介護する方の健康が実際に損なわれている睡眠不足が続く、持病が悪化した、気持ちの落ち込みが戻らない。ここまで来ている場合、続けること自体が両方にとって危険です。
- 4ご本人が家での暮らしに苦痛を感じている「誰とも話さない」「何もできることがない」という状態が続くなら、環境を変えたほうが本人の暮らしがよくなることもあります。
- 5介護する方に、避けられない生活の変化がある転居、就労の状況の変化、ご自身の治療など。頑張りではどうにもならない条件の変化は、正当な理由です。
決めるのはご本人です
ここまで判断の見方を書いてきましたが、ご本人が判断できる状態であれば、決めるのはご本人です。ご家族の役割は、代わりに決めることではなく、判断できる材料をそろえることだとお考えください。
ご本人が施設を嫌がる場合、まず 嫌がっている理由をもう少し細かく聞いてみてください。
| 嫌がっている理由 | 考えられる応じ方 |
|---|---|
| この家を離れたくない | 在宅のサービスを厚くする方向をまず検討する。施設を見る場合も、住み慣れた地域の中で探す |
| 知らない人ばかりの場所が怖い | 見学や体験入居で実際の様子を見てもらう。想像と実際が違うことは多くあります |
| お金の負担をかけたくない | 費用の見通しを一緒に確認する。遠慮が理由の場合、見通しがつくと変わることがあります |
| 家族に見捨てられると感じている | 面会の頻度や、これからどう関わるつもりかを具体的に伝える |
| 自分はまだ大丈夫だと思っている | 無理に説得しない。困った場面が起きたときに一緒に振り返る。急がず時間をかける |
ご本人が判断しにくい状態の場合も、説明を尽くしたうえで、ご本人の様子や、これまで大切にしてきたことから意向をくみ取るという進め方になります。「わからないだろうから」と本人を外して決めてしまうことは避けてください。判断能力について不安がある場合は、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターにご相談ください。
決め切れないときの進め方
十分に材料をそろえても、決め切れないことはあります。そのときは、次のように進めてみてください。
- 11 週間の記録を取ってみる夜に何回起きたか、どの場面で手がかかったか、何分かかったか。書き出すと、感覚だけで話していたときより判断しやすくなります。離れて暮らすご家族と共有する材料にもなります。
- 2決めずに見学だけしてみる見学しても契約する義務はありません。実際に見ると、費用の実感や、想像との違いがはっきりします。「まだ決めていません」と伝えて構いません。
- 3ショートステイを試してみるご本人が施設の環境に慣れるか、ご家族が離れてみてどう感じるかを確かめられます。判断の材料としても使えます。
- 4担当のケアマネジャーに、率直に伝える「限界かもしれない」と口に出すことをためらう方が多いのですが、伝えないと支援は組み直せません。ご自身の状態も含めて話してください。
- 5期限を決めて様子を見る「ひと月後にもう一度考える」と決めると、迷い続けるより気持ちが楽になります。その間に状況が変わったら、前倒しで判断してください。
よくあるご質問
Q. 在宅介護の「限界」は、どこで判断すればよいのでしょうか。
A. 何日おきに起こされたら限界、といった共通の線引きはありません。 同じ状況でも、支える方の人数や体力、住まいの造り、使えるサービスによって続けられるかどうかは変わります。この記事では、ご本人の安全・ご本人の意思・介護する方の状態・医療の必要性・費用の続けやすさという 5 つを分けて見ることをおすすめしています。1 つでも赤信号が出ていれば、それは十分に検討を始める理由になります。
Q. 本人が施設を嫌がっています。どう考えればよいですか。
A. まず、嫌がっている理由をもう少し細かく聞いてみてください。 「家を離れたくない」のか、「知らない人ばかりの場所が怖い」のか、「お金の負担をかけたくない」のかで、答えは変わります。家を離れたくないのであれば在宅のサービスを増やす方向が合いますし、費用への遠慮であれば見通しを一緒に確認することで変わることもあります。ご本人が決められる状態であれば、決めるのはご本人です。ご家族の役割は、判断できる材料をそろえることだとお考えください。
Q. 介護している自分が限界です。それは施設を考える理由になりますか。
A. 十分な理由になります。 介護する方が倒れてしまうと、ご本人の生活も同時に崩れます。ご自身の睡眠が続けて取れない、持病が悪くなった、気持ちが沈んで戻らない、といった状態が続いているなら、それはご本人の状態と同じ重さで見るべき材料です。我慢の量で決めるものではありません。 担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに、ご自身の状態も含めて話してください。
Q. 施設を考え始めたら、すぐに入居しなければいけませんか。
A. そうではありません。情報を集めることと、入居を決めることは別のことです。見学だけしてみる、費用の見通しだけ確認する、といった進め方で構いません。むしろ、追い込まれてから探し始めると選べる幅が狭くなります。余裕のあるうちに調べておくほうが、結果として在宅を長く続けられることもあります。
Q. きょうだいの間で意見が割れています。
A. よくあることです。日常的に介護している方と、離れて暮らす方とでは、見えている情報の量が違うためです。話し合う前に、1 週間の実際の様子(夜に何回起きたか、どの場面で手がかかったか)を書き出して共有すると、認識の差が縮まりやすくなります。それでも割れる場合は、担当のケアマネジャーに同席してもらい、第三者を交えて話す方法もあります。
まとめ
在宅を続けるか、施設を考えるかの判断について整理しました。
- 「限界」に共通の線引きはありません。 ほかの家と比べる必要はありません
- ご本人の安全・ご本人の意思・介護する方の状態・医療の必要性・費用の続けやすさ、この 5 つを分けて見てください
- 1 つでも赤信号が出ていれば、検討を始める理由として十分です。どこが赤かによって、次にやることが変わります
- 介護する方の状態は、ご本人の生活を支える土台です。ご本人の状態と同じ重さで見てください
- 施設を考える前に、在宅のサービスで組み直せる余地がないかを確認してください
- ご本人が判断できる状態であれば、決めるのはご本人です。ご家族の役割は材料をそろえることです
- 情報を集めることと、決めることは別です。見学だけ、という進め方で構いません
ふれあい入居サポートセンター(葛飾相談室)では、「まだ決めていないのですが」という段階のご相談もお受けしています。在宅を続ける方向で整理したほうがよい場合は、そのようにお伝えします。
参考文献・公的資料
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」(要介護度ごとの支給限度基準額、区分変更申請のしくみ。2026年8月閲覧)
- 厚生労働省「地域包括支援センターの概要」(総合相談窓口としての役割。2026年8月閲覧)
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」(在宅サービスの種類。2026年8月閲覧)
- ふれあい入居サポートセンター 葛飾相談室 入居相談の実務
- 本記事は判断のしかたの整理を目的としたもので、個別のご状況に対する助言ではありません。実際の判断は担当のケアマネジャー・主治医にご相談ください。
