介護や医療の必要性が変わっても、すぐに住み替えとは限りません。原則として、まず今の施設で対応できないかを確かめ、難しいときに負担を抑えられる移り方を考えます。ただし急変や安全上の問題があるときは、速やかに主治医・看護職員などへ相談してください。

中川 優美Yumi Nakagawa
まず知っておきたいこと
親御さんの容体が変わると、「今のままで大丈夫だろうか」と不安になります。ですが、容体が変わったからといって、すぐに施設を移さなければならないわけではありません。まずはそのことを、落ち着いて受け止めていただければと思います。
住み替えを考えるときの順番は、次のようになります。
- 原則として、まず今の施設で対応できないかを、ケアマネジャーや施設の管理者・相談担当者・看護職員に相談します。ただし急変や安全上の問題があるときは、主治医・看護職員などへ速やかに相談し、受診・入院や緊急の住み替えを検討します
- 外部のサービスで補えないかも確かめます(利用できるサービスは施設の類型によって異なります)
- それでも対応が難しいとわかったときに、住み替えを考えます
- 住み替えるなら、親御さんの負担を抑えられる移り方を選びます
住み替えは、親御さんにとって生活の場が大きく変わる出来事です。環境の変化が体調や気持ちに影響することもあるため、あわてて決めず、まず今の施設でできることを確かめることから始めましょう。
住み替えを考えるきっかけ
住み替えを考えるきっかけには、いくつかのパターンがあります。これまでご相談を受けてきた経験からも、次のような場面が多くあります。
- 要介護度が上がった:介護がより多く必要になり、今の体制で足りるか気になる
- 医療的なケアが増えた:たんの吸引や経管栄養、在宅酸素などが必要になった
- 認知症の症状が変わった:見守りや対応が、今の施設で難しくなってきた(ただし、認知症が進んだというだけで住み替えが必要とは限りません。まず、症状を強めている要因がないかを確認します)
- 費用が続かなくなってきた:より費用を抑えられる施設に移りたい
- 看取りの時期が近づいた:最期まで過ごせる体制のある施設を考えたい(ご家族だけで判断せず、医師から病状と見通しの説明を受けたうえで、いまの施設でできる看取りと、住み替えによる利益・負担を比べます)
- 施設と合わない、信頼が揺らいだ:対応や暮らしぶりに不安がある
きっかけによって、確かめるべきことや移り先の候補は変わります。「なぜ住み替えを考えているのか」をはっきりさせておくと、次の施設選びで何を優先すればよいかが見えてきます。
住み替える前に確かめたいこと
住み替えを決める前に、まず「今の施設で住み続けられないか」を確かめます。移らずに済むなら、そのほうが親御さんの負担は少なくてすみます。
要介護度が上がったこと自体が、退去の理由になるとは限りません。大切なのは、要介護度の数字ではなく、実際に必要になった介助や医療を、施設の体制で提供できるか を確かめることです。介護付き有料老人ホームなどには施設サービスとして介護を提供する体制がありますが、医療への対応、認知症の症状、二人での介助、看取り、長期入院したあとの取り扱いは施設ごとに異なります。まずは施設の管理者・相談担当者・看護職員・ケアマネジャーなどに、「今の体制で対応できるか」を相談してみてください。入院した場合の費用と居室の扱いは、別記事「入居中に入院したら費用と居室はどうなる」で施設の種類別に整理しています。
医療的なケアが増えた場合も、次のような方法で住み続けられることがあります。
- 施設の看護職員の体制で対応できないかを確かめます
- 外部のサービスで補えないかを相談します。ただし、利用できる外部サービスは施設の類型によって異なります。住宅型有料老人ホームや一般型サ高住では訪問看護などを追加・変更できる場合がありますが、介護付き有料老人ホームや介護保険施設では扱いが異なるため、施設・担当のケアマネジャー・保険者に確認してください(医療保険による訪問看護が一定の条件で使える場合もありますが、病名・状態・施設の類型によって扱いが異なります)
- 訪問診療と訪問看護は別のものです。「誰が、どの処置を、何時に、どのくらいの頻度で行い、夜間や急変のときに誰が対応するのか」まで確認します
- 医療的なケアは処置の名前だけで判断せず、回数・時間帯・必要な観察・急変時の対応 を具体的に伝えます
- 状態の変化を受けて、ケアプラン・要介護認定・医療の方針 の見直しが必要かを確認します
- 主治医とケアマネジャーを交えて、何がどこまで必要になったのかを整理します
医療的なケアと施設の体制の見方は、別記事「医療依存度が高い親の入居先」でも詳しくお伝えしています。こうした工夫を試したうえで、それでも対応が難しいとわかったときに、住み替えを考えます。
特養への移行を考えるとき
費用を抑えたい、あるいは長期的な生活の場として考えたいという理由で、特別養護老人ホーム(特養。介護保険法上の正式名称は介護老人福祉施設)への移行を希望される方は多くいらっしゃいます。ただし、費用だけで選ぶのではなく、ご本人の医療・介護の必要性に対応できることを前提に 費用を比べてください。月額の見込みは施設ごとに確認します。特養を考えるときに、知っておきたい点をまとめます。
- 入居は原則として要介護3以上が対象です。要介護1・2の方は、特別な事情がある場合に限られます(その「特別な事情」は指針で4つ示されています。別記事「特養の入居条件|特例入所と申し込みの実際」)
- 費用を抑えやすい施設です。所得・資産などの要件を満たし、負担限度額認定を受けた場合は、食費・居住費が軽くなります。月額の見込みは施設ごとに確認してください
- 希望者が多く、すぐには入れないことが少なくありません。地域によって待機の状況は異なります
- 複数の施設に申し込める場合があります。申し込み順だけでなく、ご本人の状態、介護をする方の状況、在宅での生活の難しさなどをふまえて優先順位が検討されます。ただし、空いている居室の状況や受け入れの条件によって、入所の時期は異なります
現実的な進め方としては、今の施設で暮らしながら特養に申し込んでおき、入居の順番が来たら移る、という形になります。費用を軽くする制度については、別記事「介護費用を軽くする2つの制度」や「年金だけで入れる老人ホームの探し方」もあわせてご覧ください。
住み替えの進め方
住み替えを進めると決めたら、次の順番でひとつずつ動いていきます。あわてず、親御さんの負担を抑えることを第一に考えましょう。
1. ご本人の希望を確かめ、専門職に相談する
まず、ご本人がどう暮らしたいか と、ご家族が続けて担える支援の範囲 を確かめます。そのうえで、親御さんの状態をよく知る担当のケアマネジャーや、施設の管理者・相談担当者・看護職員に相談します。主治医の医学的な見解と、施設の管理者・看護職員による受け入れ体制の判断を確認し、ケアマネジャーなどがサービスを調整します。
ご本人とご家族で希望が異なる場合は、ご家族だけで決めず、サービス担当者会議などでご本人の希望も含めて話し合って ください。
2. 移り先に求める条件を整理する
住み替えのきっかけ(医療的なケア、認知症、費用など)が、そのまま次の施設で確かめるいちばん大切な条件になります。「前の施設ではここが難しかった」を、条件として書き出しておきます。
3. 候補の施設を探し、見学する
条件に合う施設を探し、実際に見学します。受け入れ実績や体制を確かめる見学のポイントは、別記事「老人ホームの見学で必ず見る12のチェック」にまとめています。
4. 情報をていねいに引き継ぐ
移り先が決まったら、これまでの生活の様子や介護の注意点を、新しい施設に引き継ぎます。担当のケアマネジャーが替わる場合の引き継ぎについては、別記事「ケアプランの見直しと施設への引き継ぎ」も参考になります。
住み替えで気をつけたいこと
住み替えを進めるとき、いちばん気を配りたいのは、環境が変わることによる親御さんの負担です。高齢の方は、住まいや周りの人が変わることで、一時的に体調や気持ちが不安定になることがあります。
負担をやわらげるために、次のような点を意識してみてください。
- これまでの生活の様子、好きなこと、介護の注意点を、新しい施設にていねいに伝えます。認知症の症状は「徘徊」「暴言」といった言葉だけで伝えず、どんな場面で、どのくらいの頻度で起きるのか を具体的に引き継ぎます
- 使い慣れた持ち物や、なじみのある品を新しい居室に持っていきます
- 移ったあとしばらくは、食事・水分・睡眠・排せつ・転倒・表情 を重点的に確認します。面会の頻度や方法は、ご本人の反応と施設の助言を確かめながら調整します
日程の調整も大切です。新しい施設の契約と受け入れが確定してから、今の施設の解約日を調整 してください。先に解約してしまうと、住む場所がなくなる恐れがあります。
あわせて、事務的なことも確かめておきましょう。今の施設の退去の手続き、契約書・重要事項説明書に書かれた返還の計算方法、解約の予告期間、敷金などの精算、次の施設の費用などです。退去にまつわるお金については、別記事「老人ホームから退去を求められたら」の後半でも触れています。
住み替えは負担のある出来事ですが、ていねいに準備すれば、親御さんにとってより合った暮らしにつなげられます。
よくあるご質問
Q. 要介護度が上がったら、今の施設は出ないといけませんか。
A. 要介護度が上がったからといって、すぐに出なければならないわけではありません。介護付き有料老人ホームなどは、要介護度が上がっても住み続けられることが多い施設です。まずは担当のケアマネジャーや、施設の管理者・相談担当者・看護職員に、今の体制で対応できるかを相談してみてください。要介護度の数字ではなく、実際に必要になった介助や医療を施設が提供できるかどうかが判断の軸になります。対応が難しいとわかったときに、住み替えを考えます。
Q. 住み替えは早めに決めたほうがよいですか。
A. あわてて決める必要はありません。住み替えは親御さんにとって環境が大きく変わる負担があり、体調や気持ちに影響することもあります。まず今の施設で対応できないかを確かめ、外付けの訪問看護などで補える場合もあります。それでも難しいときに、負担を抑えられる移り方を落ち着いて考えていきましょう。
Q. 特養に移りたいのですが、すぐ入れますか。
A. 特別養護老人ホーム(特養)は費用を抑えやすい一方で、希望者が多く、すぐには入れないことが少なくありません。入居は 原則として要介護3以上 が対象です。複数の施設に申し込める場合があり、申し込み順だけでなく、本人の状態や介護をする方の状況、在宅での生活の難しさなどをふまえて優先順位が検討されます。今の施設で継続できる場合は、暮らしながら申し込みます。継続が難しい場合は、自宅、ショートステイ、医療に対応できる施設なども含めて、特養に入所するまでの生活の場も並行して検討します。
Q. 医療的なケアが増えました。今の施設で住み続けられますか。
A. たんの吸引や経管栄養などが必要になった場合でも、施設の看護体制や、訪問看護・訪問診療を外から組み合わせることで住み続けられることがあります。まずは主治医とケアマネジャー、施設に、何がどこまで必要になったのかを整理して相談してみてください。対応が難しい場合に、医療体制の整った施設への住み替えを考えます。
Q. 住み替えで気をつけることは何ですか。
A. 環境が変わることが親御さんの負担になりやすい点に、いちばん気を配りたいところです。これまでの生活の様子や介護の注意点を、新しい施設に ていねいに引き継ぐ ことで、負担をやわらげられます。あわせて、今の施設の退去手続きや前払金の精算、次の施設の費用も確かめておきましょう。
まとめ
入居後に容体が変わったときの、住み替えの判断について振り返ります。
- 容体が変わっても、すぐに住み替えとは限りません。まず今の施設で対応できないかを確かめます
- 要介護度が上がっても、介護付き有料老人ホームなどは 住み続けられることが多い施設です
- 医療的なケアが増えても、訪問看護などの外付けサービスで補える場合があります
- 費用を抑えたい場合の特養は、原則要介護3以上が対象で、複数施設に申し込めます
- 住み替えるときは、環境が変わる負担に配慮し、情報をていねいに引き継ぎます
住み慣れた施設を変えるかどうかは、ご家族だけで判断するには難しい問題です。今の施設で住み続けられるかのご相談も、住み替え先探しも承っていますので、迷ったときは お気軽にご相談ください。
参考文献・公的資料
- 厚生労働省・WAM NET「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」— 入居要件(原則要介護3以上)(2026年7月閲覧)
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」— 施設サービス・居宅サービスの区分(2026年7月閲覧)
- 施設ごとの受け入れ条件・体制・待機状況は各施設・自治体により異なります。実際の対応は各施設にご確認ください。
