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コラム入居後のフォローご家族向け

老人ホームから退去を求められたら
— 確認したいことと相談先を社会福祉士が解説 —

入居している親御さんについて、施設から「退去をお願いしたい」という話が出たら、誰でも動揺してしまいます。「従うしかないのだろうか」「次の住まいはどうすればいいのか」と不安になるのは、自然なことです。 実は、施設側からの契約解除には 国の指針や法律による制限 があり、その場ですぐに退去へ応じる必要はありません。本記事では、退去を求められたときに確認したいことと話し合いの進め方、困ったときの相談先をまとめました。
掲載日:2026.06.05|監修:社会福祉士・入居相談員
この記事の答え

老人ホームから退去を求められても、すぐに応じる必要はありません。施設側からの契約解除には国の指針や法律による制限があります。

国の指針では、施設側からの契約解除の条件は「信頼関係を著しく害する場合に限る」など、入居者の権利を不当に狭めないことが求められています。理由と契約上の根拠を書面で確かめ、契約書・重要事項説明書と突き合わせたうえで話し合うのが基本の進め方です。納得できないときは、行政の担当課や消費生活センターに相談できます。
中川 優美(社会福祉士・入居相談員)
この記事の監修者

中川 優美Yumi Nakagawa

社会福祉士。ふれあい入居サポートセンター葛飾相談室にて、入居相談を担当。入居後のお困りごとや転居のご相談も含めて、ご家族の住まい選びをサポートしている。
社会福祉士(国家資格)ふれあい入居サポートセンター 葛飾相談室高齢者向け住まい紹介事業者届出 25-0881
編集ポリシー:本記事は、施設側からの契約解除の制限・重要事項説明書の記載事項については厚生労働省「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」(令和 6 年 12 月 6 日改正)、賃貸借契約の解約の制限については借地借家法 第 27 条・第 28 条、前払金の返還については老人福祉法 第 29 条第 10 項・同法施行規則 第 21 条に基づいて執筆しています(いずれも 2026 年 6 月に原文を確認)。本記事内の事例はイメージで、特定の個人を表すものではありません。

まず知っておきたいこと

突然の話に頭が真っ白になってしまうかもしれませんが、慌てて荷物をまとめる必要はありません。退去の話が出たときの対応は、大きく次の 3 段階で進めていきます。

  1. 退去を求める理由と契約上の根拠を、書面で確かめます
  2. 契約書・重要事項説明書と突き合わせたうえで、施設と話し合います
  3. 納得できない場合や話し合いが難しい場合は、外部の相談先を使います

国が定める有料老人ホームの運営指針では、施設側からの契約解除の条件は 「信頼関係を著しく害する場合に限る」など、入居者の権利を不当に狭めないこと が求められています。また、施設側から解約を求める場合の予告期間は、重要事項説明書にあらかじめ記載しておく決まりになっています。

つまり、施設の判断だけで「今月中に出ていってください」と一方的に進められるものではありません。時間の余裕はありますので、ひとつずつ確かめていきましょう。

施設側からの退去には制限がある

「施設に退去と言われたら、もう従うしかない」と思われがちですが、実際にはそうではありません。施設のタイプごとに、入居者を守る決まりがあります。

有料老人ホームの場合

有料老人ホーム(介護付き・住宅型)については、厚生労働省の「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」が運営の基準を定めています。この指針では、契約内容について次のことが求められています。

  • 入居契約書に定める施設側の契約解除の条件は、信頼関係を著しく害する場合に限る など、入居者の権利を不当に狭めるものになっていないこと
  • 要介護状態になったことなどを理由として契約を解除する場合には、医師の意見を聴くこと本人または身元引受人等の同意を得ること一定の観察期間を設けること という一連の手続きを踏むこと
  • 施設側から解約を求める場合の 解約予告期間 を、重要事項説明書に記載しておくこと

「介護が重くなったので退去してください」という話が出た場合でも、医師の意見や本人・身元引受人の同意といった手続きを踏まずに進めることは、この指針の趣旨に合いません。まずは「契約書のどの条項に基づく話なのか」を確かめることが出発点になります。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の場合

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住。安否確認と生活相談が付いた高齢者向けの賃貸住宅)の多くは、賃貸借契約で入居しています。賃貸借契約には借地借家法が適用されるため、貸主側からの解約申入れには 「正当の事由」が必要 とされ、解約の申入れから 6 か月 を経過しなければ契約は終了しません(借地借家法 第 27 条・第 28 条)。

また、サ高住の登録基準では、長期入院を理由とした一方的な解約は認められていません。賃貸住宅としての性格が強いぶん、入居者の住まいとしての保護は手厚いと言えます。

特養など介護保険施設の場合

特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)などの介護保険施設は、有料老人ホームとは制度上の位置づけが異なります。退所の話が出た場合は、施設の生活相談員や担当のケアマネジャー、お住まいの自治体の介護保険担当課に早めに相談してみてください。本記事では、ご相談の多い有料老人ホームとサ高住を中心に解説していきます。

退去を求められる主な 5 つの理由と考え方

退去の話には、必ず施設側の理由があります。これまでご相談を受けてきた経験から、よくある 5 つの理由と、それぞれご家族が確かめたいことをまとめました。

1. 医療的なケアが増えて、施設で対応しきれなくなった

たんの吸引や経管栄養(チューブで栄養をとる方法)など、医療的なケアが日常的に必要になると、看護職員の体制によっては「うちでは対応できない」という話になることがあります。

ただし、対応できるかどうかは、施設の看護体制や協力医療機関との連携の組み方によって変わります。訪問看護や訪問診療を外から組み合わせることで住み続けられる場合もありますので、「何がどこまで必要になったのか」「外部のサービスを組み合わせる余地はないのか」を、主治医とケアマネジャーを交えて確かめてみてください。医療的なケアと施設の体制の見方は、別記事「医療依存度が高い親の入居先」でも詳しく解説しています。

2. 入院が長引いている

入院が 3 か月を超えるような場合に、契約書の定めに基づいて契約解除を打診されることがあります。

このときに確かめたいのは、契約書と重要事項説明書に「入院時の契約の扱い」がどう書かれているかです。退院の見込み時期について病院の主治医や退院支援の担当者から見通しを聞き、施設に伝えることで、話し合いの余地が生まれることも少なくありません。なお、サ高住では長期入院を理由とした一方的な解約は認められていません。

3. ほかの入居者や職員との関係が難しくなった

認知症の症状などで大きな声が出てしまう、ほかの入居者とのトラブルが続いてしまう、といった行動面の理由で退去を求められることがあります。

ご家族としては心苦しい場面ですが、ここで確かめたいのは「施設がどんな対応を試みたか」です。薬の調整や環境の工夫、関わり方の見直しで症状が落ち着く場合もあり、主治医や認知症の専門医に相談する道もあります。施設側が十分な工夫をしないまま退去だけを求めている場合は、後述する外部の相談先に状況を伝えてみてください。

4. 利用料の支払いが滞っている

利用料の滞納は、契約書に解除事由として定められていることが多く、施設側の求めに一定の理由がある場合です。

ただ、滞納してしまった事情によっては、分割払いの相談や、費用負担を軽くする制度(高額介護サービス費など)の活用で立て直せることもあります。放置せず、早めに施設とお住まいの自治体に相談することが大切です。

5. 入居時の申告内容と実際が異なっていた

入居時に伝えていた心身の状態と実際が大きく異なる場合に、契約解除の話になることがあります。意図的な虚偽でなければ、状態の変化として 1. と同じように話し合える場合もありますので、経緯を整理して施設に伝えてみてください。

退去の話が出たときの進め方

理由が何であれ、進め方の基本は同じです。慌てなくて大丈夫です。次の順番でひとつずつ進めていけば、状況は整理できていきます。

1. 理由と根拠を書面でもらう

口頭のやり取りだけでは、後から「言った・言わない」になりがちです。退去を求める理由と、契約書のどの条項に基づくものか、いつまでの退去を求めているのかを、書面でもらえるよう施設にお願いしてみてください。

2. 契約書と重要事項説明書を確かめる

入居時に受け取った契約書と重要事項説明書の「契約解除」の欄を確かめます。重要事項説明書には、施設側から解約を求める場合の解約条項と解約予告期間が記載されています。手元に見当たらない場合は、施設に再交付を求めることができます。重要事項説明書の読み方は、別記事「重要事項説明書の読み方」にまとめています。

3. 施設と話し合う

確かめた内容をもとに、施設と話し合いの場を持ちます。担当のケアマネジャーや、地域包括支援センター(高齢者の総合相談窓口)の職員に同席してもらうと、冷静に話を進めやすくなります。話し合いの日時・出席者・内容は、簡単で構わないので記録に残しておくと安心です。

4. 外部の相談先を使う

施設との話し合いで納得できない場合は、ひとりで抱え込まずに外部の窓口に相談してみてください。

相談先どんなときに
都道府県・市区町村の有料老人ホーム担当課指針に合わない進め方をされていると感じるとき(行政には指導の権限があります)
消費生活センター(局番なしの 188)契約・解約のトラブル全般
地域包括支援センター介護や今後の住まいを含めた全体の相談
重要事項説明書に記載の苦情窓口施設内での解決を図るとき

5. 並行して、次の住まいの情報も集めておく

話し合いの結果がどうであれ、選択肢を持っておくことがご家族の安心につながります。「戻る・住み続ける」を目指しながらも、並行して次の住まいの情報を集めておくと、どちらに転んでも慌てずに済みます。

転居が避けられない場合の住まい探し

話し合いを尽くしても、転居が避けられないことはあります。そのときは、「今回退去を求められた理由」こそが、次の施設選びでいちばん大切な条件になります。

退去の理由次の住まいで確かめたいこと
医療的なケアの増加看護職員の配置時間、たんの吸引・経管栄養などの受け入れ実績、協力医療機関との連携
行動面の症状認知症ケアの体制と実績、精神科医との連携、グループホームなどの選択肢
費用の問題月額を抑えられる施設、費用負担を軽くする制度の活用

同じ失敗を繰り返さないためには、候補の施設に「前の施設ではこういう経緯があった」と正直に伝えたうえで、受け入れ可能かを確かめることが大切です。伝えにくいことではありますが、隠したまま入居すると、同じ問題が起きやすくなってしまいます。

退去にまつわるお金

退去となった場合のお金についても、確かめておきたいことがあります。

入居時に前払金(入居一時金)を支払っている場合は、想定居住期間より前の退去であれば、未償却分(まだ使っていない期間に相当する分)が返還されます。返還額の計算方法は契約書に明示することになっていますので、金額の根拠を施設に確かめてみてください。

また、入居から 3 か月以内に契約が終了した場合は、日割りの家賃などを除いた前払金が返還される決まりがあります(老人福祉法 第 29 条第 10 項、同法施行規則 第 21 条)。入居して間もない時期の退去では、この決まりも頭に入れておくと安心です。

賃貸借契約のサ高住で敷金を支払っている場合の精算は、契約書の定めによります。原状回復費用の差し引きに納得できないときは、消費生活センターに相談する道もあります。

よくあるご質問

Q. 「来月までに退去してほしい」と言われました。従わないといけませんか。

A. その場で承諾する必要はありません。重要事項説明書に記載された 解約予告期間 と、契約書上の 解除事由 を確かめることが先になります。国の指針では、施設側からの契約解除は信頼関係を著しく害する場合に限るなど、入居者の権利を不当に狭めないことが求められています。

Q. 納得できないまま退去を拒否し続けたら、どうなりますか。

A. 施設が一方的に荷物を運び出すようなことは認められません。ただ、対立が長引くと親御さんの生活環境にも影響しますので、行政の担当課や消費生活センターといった 第三者を交えて、話し合いでの解決 を目指すことをおすすめします。

Q. 入院中に「退院しても戻らないでほしい」と言われました。

A. まず契約書の 入院時の取り扱い を確かめてください。サ高住では長期入院を理由とした一方的な解約は認められていません。有料老人ホームでも、予告期間や手続きを踏まない一方的な解約は指針の趣旨に合いませんので、書面での説明を求めたうえで相談窓口に相談してみてください。

Q. 退去する場合、前払金(入居一時金)は戻ってきますか。

A. 想定居住期間より前の退去であれば、一般的に 未償却分が返還 されます。入居から 3 か月以内の契約終了の場合は、日割りの家賃などを除いた額が返還される決まりもあります。計算の根拠は契約書に明示されていますので、施設に確かめてみてください。

Q. どこに相談すればよいか分かりません。

A. 介護や住まいの全体的な相談は 地域包括支援センター、契約トラブルの相談は 消費生活センター(局番なしの 188)、施設の運営への疑問は 都道府県・市区町村の有料老人ホーム担当課 が窓口になります。次の住まい探しを含めたご相談は、ふれあい入居サポートセンターの無料相談もご利用いただけます。

まとめ

施設から退去を求められても、すぐに応じる必要はありません。施設側からの契約解除には、国の指針や法律による制限があります。

  1. 理由と契約上の根拠を 書面で確かめる ことが出発点になります
  2. 重要事項説明書には、施設側からの 解約条項と予告期間 が記載されています
  3. 要介護状態を理由とする解除には、医師の意見聴取や本人・身元引受人の同意 といった手続きが求められています
  4. 納得できないときは、行政の担当課や消費生活センター などの第三者に相談できます
  5. 転居が避けられない場合は、退去の理由を次の施設選びの条件 に変えていきます

退去の話は、ご家族だけで抱え込むには重すぎる問題です。話し合いの進め方に迷ったときも、次の住まい探しが必要になったときも、お気軽にご相談ください

参考文献・公的資料

  1. 厚生労働省「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」(令和6年12月6日改正、2026年6月閲覧)11 利用料等・12 契約内容等・別紙様式(重要事項説明書)
  2. 借地借家法 第27条(解約による建物賃貸借の終了)、第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)(e-Gov 法令検索、2026年6月閲覧)
  3. 老人福祉法 第29条第10項(前払金の返還)、同法施行規則 第21条(家賃等の前払金の返還方法)(e-Gov 法令検索、2026年6月閲覧)

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