入居一時金は法律の言葉ではなく、多くは家賃などの前払金です。確かめるのは額そのものよりも、何の前払いか・何年で充てられるか・途中で退去したらいくら戻るか・保全措置はあるか・月払いも選べるかの 5 点です。

中川 優美Yumi Nakagawa
「入居一時金」は法律の言葉ではありません
まず、言葉の整理から始めます。有料老人ホームについて定める老人福祉法第 29 条にも、サービス付き高齢者向け住宅の登録の基準を定める高齢者住まい法第 7 条にも、「入居一時金」という言葉は出てきません。 パンフレットや見積書で使われる呼び名で、施設によって入居金、入居一時金、前払金、保証金などさまざまに書かれます。
一方で、法律が名前を付けて定めているものはあります。有料老人ホームについて老人福祉法が定めているのは、家賃、敷金、介護等の対価、そして前払金です。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)について高齢者住まい法が定めているのは、敷金と家賃等の前払金です。
ですから、パンフレットの呼び名を見ても中身は決まりません。確かめるのは、そのお金が次のどれに当たるのかです。
| 契約書での扱い | 性質 | 退去のときの扱い |
|---|---|---|
| 前払金(家賃などの前払い) | 将来の家賃などを先に払ったもの | 契約書の計算式にしたがって、まだ充てられていない分が戻る |
| 敷金 | 預かり金。未払いの費用や部屋の修復に充てられる | 充てられた分を差し引いた残りが戻る |
| 権利金 | 家賃・敷金・介護等の対価以外の金品 | 有料老人ホームでは受け取ってはならないものとされています |
場所を買うお金ではありません
ここが誤解されやすいところです。老人福祉法は、有料老人ホームの設置者について次のように定めています。
有料老人ホームの設置者は、家賃、敷金及び介護等その他の日常生活上必要な便宜の供与の対価として受領する費用を除くほか、権利金その他の金品を受領してはならない(同法第 29 条第 8 項)
つまり、家賃・敷金・サービスの対価という説明のつかないお金を受け取ることは、認められていません。 「入居させてもらうための謝礼」や「優先して案内してもらうためのお金」といった性質のものは、制度のうえでは想定されていないということです。
サ高住についても同じ趣旨の定めがあります。高齢者住まい法は、登録の基準として、事業者が敷金・家賃等・家賃等の前払金を除くほか権利金その他の金銭を受け取らない契約であることを求めています(同法第 7 条第 1 項第 6 号ハ)。
そして、有料老人ホームに多い「利用権方式」という契約の形でも、得られるのは居室と共用部分を使う権利です。部屋の所有権を得るわけではありませんので、入居一時金を払ったからその部屋が資産になる、ということはありません。 相続の対象になるのは、退去のときに返ってくる分(返還金を受け取る権利)のほうです。
契約の形そのものの違いは、別記事「サ高住と有料老人ホームの違い」で整理しています。
償却 — 内訳の見方
前払金は、入居したあと時間をかけて家賃などに充てられていきます。これを償却と呼びます。法律は、前払金を一括して受け取る場合、その算定の基礎を書面で明示することを求めています(老人福祉法第 29 条第 9 項)。サ高住では、前払金の算定の基礎と、返還の債務を負う場合の返還額の算定方法が明示された契約であることが登録の基準です(高齢者住まい法第 7 条第 1 項第 6 号ニ)。
見るのは 3 つの数字
書面を渡されたら、次の 3 つを探してください。この 3 つが分かれば、お金の動きはおおよそ読めます。
- 総額 — 前払金として払う額の合計
- 入居のときにすぐ充てられる分 — 入居した時点で償却される分です。いわゆる初期償却にあたります
- 残りが何年で充てられるか — 残りを何か月・何年で償却していくかという期間です
このうち 2 と 3 は、施設ごとに設計が違います。 書面を見ないと分かりませんので、候補ごとに聞き取って並べる必要があります。ここが施設間でいちばん差の出るところです。
契約書での呼び名はさまざま
「初期償却」という言葉が契約書に書かれていないこともあります。同じ意味のことが、次のような書き方で示されている場合があります。
- 入居時償却
- 前払金のうち返還の対象とならない部分
- 契約時に償却する額
見つからないときは、「入居した翌月に退去したとき、いくら戻りますか」と数字で聞いてみてください。 呼び名が分からなくても、返ってくる答えで内訳が見えます。
重要事項説明書のどこを見ればよいかは、別記事「重要事項説明書の読み方」にまとめています。
途中で退去したら、いくら戻るのか
ご家族からいちばん多くいただくご質問です。制度の定めは 2 段になっています。
1 つめは、入居して間もない時期についての定めです。 老人福祉法は、前払金を受け取る場合、次のような契約を結ばなければならないとしています。
当該有料老人ホームに入居した日から厚生労働省令で定める一定の期間を経過する日までの間に、当該入居及び介護等の供与につき契約が解除され、又は入居者の死亡により終了した場合に当該前払金の額から厚生労働省令で定める方法により算定される額を控除した額に相当する額を返還する旨の契約を締結しなければならない(同法第 29 条第 10 項)
サ高住にも同じ趣旨の定めが登録の基準に入っています(高齢者住まい法第 7 条第 1 項第 6 号ホ)。
ここで気をつけていただきたいのは、「一定の期間内であれば全額戻る」とは書かれていないことです。条文は「算定される額を控除した額」を返すという形になっていて、差し引かれる額があることが前提の定めです。期間そのものと、差し引く額の計算の方法は厚生労働省令に定められています。本記事では日数を書きませんので、お手元の契約書で期間と計算式をご確認ください。
2 つめは、その期間を過ぎたあとです。 ここは法律が返還額を直接定めているわけではなく、契約書に書かれた返還の計算式によります。多くは、まだ償却されていない分を返す形になっています。ですから前の章の「3 つの数字」が分かっていれば、退去の時期ごとにいくら戻るかを自分で見積もれます。
施設が続けられなくなったときの備え
前払金を払ったあとで施設が事業を続けられなくなったら、というご心配もよくうかがいます。ここにも定めがあります。
老人福祉法は、終身にわたって受け取るべき家賃などの全部または一部を前払金として一括して受け取る設置者について、返還の債務を負うことになる場合に備えて、厚生労働省令の定めにより必要な保全措置を講じなければならないとしています(同法第 29 条第 9 項)。
サ高住では、前払金の保全措置が登録の基準に入っています(高齢者住まい法第 7 条第 1 項第 8 号)。あわせて、建物の工事が完了する前に敷金や家賃等の前払金を受け取らないことも基準です(同項第 7 号)。建設中の住まいの話を聞いたときに、この点は思い出していただくとよいところです。
確かめ方は、重要事項説明書の保全措置の欄を見ることです。保全の方式(銀行などによる連帯保証、信託、保険といった形があります)と、保全される額が書かれています。
前払いと月払い、どちらを選ぶか
同じ施設で、前払いの方式と月払いの方式の両方を用意していることがあります。どちらを選ぶかで、お金の出方が変わります。
| 前払いの方式 | 月払いの方式 | |
|---|---|---|
| 初めに用意するお金 | まとまった額が必要 | 少なくてすむ |
| 月々の負担 | 低くなる(家賃相当分が前払金から充てられる設計のことがあります) | 前払いより高くなる |
| 長く住んだとき | 月々が軽いぶん、総額は抑えられることがある | 総額が前払いを上回ることがある |
| 早い時期に退去したとき | 戻る額は契約書の計算式によります | 影響は小さい |
| 住み替えの考えやすさ | 前払金の扱いを考える必要がある | 考えやすい |
どちらが有利かは、一般論では決まりません。 判断の材料になるのは次の 3 つです。
- どのくらいの期間、住む見通しか
- 手元にいくら残しておきたいか(医療費や、ほかのご家族の生活のために)
- 医療の必要が増えて住み替えになる可能性がどれくらいあるか
3 つめは見落とされやすいところです。入居のあとに容体が変わって住み替えを考える場面は実際にあり、その判断は別記事「入居後に容体が変わったら」で整理しています。
前払金がない施設もあります
「入居一時金は必ずかかるもの」と思われていることがありますが、そうではありません。東京都福祉局が公表している都内の有料老人ホームの届出情報では、介護付有料老人ホーム 873 施設のうち前払金があるのは 557 施設でした。一方、住宅型有料老人ホーム 326 施設では 46 施設で、住宅型では前払金がないほうが多いという傾向が出ています。前払金があるところの月額と、ないところの月額は設計が違いますので、そこも含めて見比べる必要があります。
費用を抑える方向で候補を広げたいときは、別記事「費用を抑えて入れる老人ホームの探し方」もあわせてご覧ください。
契約前に確かめる 5 つのこと
ここまでを、そのまま聞ける質問の形にまとめます。5 つとも、口頭の説明ではなく書面の該当箇所を指してもらってください。
- この一時金は、何の前払いですか。家賃ですか。介護の費用も入っていますか 前払金なのか敷金なのかで、戻る額の計算が変わります
- 入居したときにすぐ充てられる分はいくらで、残りは何年で充てられますか この 2 つは施設ごとに設計が違い、書面を見ないと分からない部分です
- 入居して間もない時期に退去した場合、いくら戻りますか。計算式を見せてください 「一定の期間内なら全額」ではありません。期間と差し引かれる額を、数字で確かめます
- 前払金の保全措置はどの方式で、いくらまで保全されますか 重要事項説明書に方式と額が書かれています。額は全額とは限りません
- 月払いの方式も選べますか。選べる場合、月額はいくら違いますか 選べる場合は、3 年・5 年など同じ期間で総額を出してもらいます
答えにくそうにされたときは、その場で無理に決めないことをおすすめします。書面を持ち帰って読む時間をいただくのは、失礼なことではありません。
よくあるご質問
Q. 入居一時金とは、何に対して払うお金ですか。
A. 多くの場合、家賃などの前払いです。老人福祉法は、有料老人ホームの設置者が家賃・敷金・介護等その他の日常生活上必要な便宜の供与の対価として受け取る費用を除くほか、権利金その他の金品を受け取ってはならないと定めています。つまり「入居させてもらうための謝礼」や「部屋を買う代金」といった性質のお金は、制度のうえでは想定されていません。ただし入居一時金という呼び名は法律の言葉ではなく、施設によって入居金・保証金などさまざまに呼ばれます。名前ではなく、契約書と重要事項説明書で何の前払いなのかを確かめてください。
Q. 入居一時金は、どの施設でも必ずかかるのでしょうか。
A. いいえ、前払金のない施設もあります。東京都福祉局が公表している都内の有料老人ホームの届出情報では、介護付有料老人ホーム 873 施設のうち前払金があるのは 557 施設で、住宅型有料老人ホーム 326 施設では 46 施設でした。住宅型では前払金がないほうが多いという傾向が出ています。また、同じ施設で前払いの方式と月払いの方式の両方を用意していることもあります。前払金のあるなしで候補を絞るのではなく、住む期間の見通しと手元に残しておきたいお金から考えるほうが判断しやすくなります。
Q. 途中で退去したら、入居一時金は返ってきますか。
A. 全額が戻るとは考えないでください。老人福祉法は、前払金を受け取る場合、入居した日から厚生労働省令で定める一定の期間が経過する日までの間に契約が解除されたとき、または入居者が亡くなって終了したときは、前払金から厚生労働省令で定める方法により算定される額を差し引いた額を返す契約を結ばなければならないと定めています。差し引かれる額があることが前提の定めです。その期間を過ぎたあとにいくら戻るかは、契約書に書かれた返還の計算式によります。期間と計算式は施設ごとに違いますので、契約前に書面で確かめてください。
Q. 施設が事業を続けられなくなったら、払ったお金はどうなりますか。
A. 老人福祉法は、終身にわたって受け取るべき家賃などの全部または一部を前払金として一括して受け取る設置者に対して、返還の債務を負うことになる場合に備えて、厚生労働省令の定めにより必要な保全措置を講じなければならないと定めています。サービス付き高齢者向け住宅でも、前払金の保全措置が登録の基準に入っています。保全の方式や保全される額は重要事項説明書に書かれていますので、そこを見てください。なお保全措置は前払金の返還に備えるためのもので、介護の質や月額の費用を保証するものではありません。
Q. 前払いと月払いは、どちらを選ぶとよいですか。
A. 一般論では決まりません。前払いの方式は月額が下がりますので、長く住むほど月々の負担は軽くなります。一方でまとまった額を先に用意する必要があり、早い時期に退去した場合に戻る額は契約書の計算式によります。月払いの方式は初めの負担が軽く、住み替えを考えやすい形ですが、長く住むと総額が前払いを上回ることがあります。判断の材料になるのは、どのくらいの期間住む見通しか、手元にいくら残しておきたいか、医療の必要が増えて住み替えになる可能性がどれくらいあるかです。候補それぞれについて、同じ期間で並べた見積もりを出してもらってください。
Q. 入居一時金を親のお金から払う場合、気をつけることはありますか。
A. ご本人の預金から払うときは、何のために、いくら出したのかを記録に残しておくことをおすすめします。領収書と振込の控えをまとめておくだけでも、あとでご兄弟に説明するときの助けになります。ご本人の判断する力が下がっている場合は、手続きそのものが進めにくくなることもあります。誰が費用を負担するのかという考え方は別記事「老人ホームの費用は誰が払うのか」、判断する力が下がった場合の契約については別記事「成年後見制度と老人ホームの入居・契約」で扱っています。
まとめ
入居一時金は額の大きさに目が行きますが、見るべきなのは内訳と戻り方です。要点は 5 つです。
- 「入居一時金」は法律の言葉ではありません。 契約書でそれが前払金なのか敷金なのかを確かめます
- 権利金は受け取れません(老人福祉法第 29 条第 8 項)。場所を買うお金ではなく、家賃などの前払いです
- 入居時にすぐ充てられる分と、残りの償却期間は施設ごとに設計が違います。書面で聞き取ります
- 入居して間もない時期の返還には定めがありますが、全額が戻るという定めではありません(同条第 10 項)
- 前払金の保全措置があります(同条第 9 項)。方式と保全される額を重要事項説明書で確かめます
そのうえで、前払いと月払いのどちらがよいかは、住む期間の見通しと手元に残しておきたいお金で変わります。同じ期間で並べた見積もりを出してもらうのが、いちばん確かな比べ方です。
書面を渡されて読み方が分からないときは、お気軽にご相談ください。ふれあい入居サポートセンターでは、社会福祉士などの専門の相談員が無料でご相談を承っています。
参考文献・公的資料
- 老人福祉法(昭和38年法律第133号)第29条第8項(家賃・敷金・介護等の対価を除くほか、権利金その他の金品の受領禁止)・第9項(終身にわたって受領すべき家賃等の全部又は一部を前払金として一括して受領する場合の、算定の基礎の書面による明示と、返還債務に備えた保全措置)・第10項(入居した日から厚生労働省令で定める一定の期間を経過する日までの間に契約が解除され、又は入居者の死亡により終了した場合に、前払金の額から厚生労働省令で定める方法により算定される額を控除した額を返還する旨の契約の締結義務)(条文の原文を確認。2026年9月17日確認)
- 高齢者の居住の安定確保に関する法律(平成13年法律第26号)第7条第1項第6号ハ(敷金・家賃等・家賃等の前払金を除くほか、権利金その他の金銭を受領しない契約であること)・同号ニ(家賃等の前払金の算定の基礎および返還債務の金額の算定方法が明示された契約であること)・同号ホ(入居後、国土交通省令・厚生労働省令で定める一定の期間が経過する日までの間に契約が解除され、又は入居者の死亡により終了した場合の返還)・第7号(整備の工事の完了前に敷金又は家賃等の前払金を受領しないこと)・第8号(家賃等の前払金の返還債務に備えた保全措置)(条文の原文を確認。2026年9月17日確認)
- 東京都福祉局「東京都内有料老人ホーム一覧」(令和8年9月1日現在・毎月更新)の届出情報の集計。介護付有料老人ホーム 873 施設のうち前払金があるのは 557 施設、住宅型有料老人ホーム 326 施設のうち 46 施設。なお、この集計値は 2026年9月15日に当センターが同一覧から集計したもので、本記事の執筆時点では集計元のファイルを再確認できていません。数値の再確認が必要です。
- 本記事では、前払金の返還に関する「一定の期間」の日数、控除される額の算定方法、保全措置の方式と限度額を示していません。いずれも厚生労働省令(サービス付き高齢者向け住宅については国土交通省令・厚生労働省令)に定めがあり、本記事の執筆時点で省令の原文を確認できていないためです。実際の期間と計算式は、各施設の契約書および重要事項説明書でご確認ください。
- 初期償却の割合、償却期間、返還の計算式、保全の方式と額は施設ごとに大きく異なります。実際の契約内容は各施設にご確認ください。
