認知症かなと気づいたら、初期にすることは大きく3つです。気づきを受診につなげること、地域包括支援センターに相談すること、介護保険の申請を始めること。あわてて施設を決める必要はありません。

中川 優美Yumi Nakagawa
初期にすることは、大きく3つ
親の様子に「あれ?」と感じたとき、いきなり施設や将来のことまで考えると、頭がいっぱいになってしまいます。初期の段階でご家族がすることは、実はそれほど多くありません。大きく分けると、次の3つです。
| すること | 内容 | 相談・窓口 |
|---|---|---|
| 1. 気づきを受診につなげる | 気になった様子をメモし、まずかかりつけ医に相談する | かかりつけ医、もの忘れ外来、認知症疾患医療センター |
| 2. 相談窓口に連絡する | これからの進め方や使える支援を教えてもらう | 地域包括支援センター(無料)、認知症初期集中支援チーム |
| 3. 介護保険の申請を検討する | 見守りや介助が必要になっている場合は、要介護認定の申請を検討する。診断の前でも申請できる | 市区町村の介護保険窓口、地域包括支援センター |
3 つめは、生活に支障が出ている場合に検討する もので、必ず申請しなければならないというものではありません。この3つは、順番どおりでなくても構いません。受診の予約を取りながら地域包括支援センターに電話する、というように、並行して進めても大丈夫です。大切なのは、ご家族だけで抱え込まず、早めに専門の窓口とつながっておくことです。次の章から、ひとつずつ見ていきます。
「年のせいの物忘れ」と気になるサイン
「これは年のせいの物忘れなのか、それとも認知症なのか」。ここがいちばん迷うところだと思います。はっきり線を引くのは専門家でも難しく、ご家族が見た目だけで判断できるものではありません。ここでは、受診を考えるきっかけとして、一般的に言われている違いをお伝えします。
加齢の物忘れとの一般的な違い
年齢を重ねると、だれでも名前がすぐ出てこない、といったことは起こります。一般的には、加齢による物忘れは「体験の一部」を忘れるのに対し、認知症では「体験そのもの」を忘れる傾向があると言われています。たとえば、朝ごはんのおかずを思い出せないのは加齢の物忘れに近く、朝ごはんを食べたこと自体を覚えていないのは、受診を考えたほうがよい様子と言えます。
ただし、これはよく用いられる目安のひとつであって、この違いだけで認知症かどうかを判断することはできません。 当てはまるかどうかで自己判断せず、「気になる様子が続くなら受診の相談をする」という受け止め方で十分です。
あわせて大切にしたいのが、ご本人が感じている不安や困りごとを聞く ことです。ご家族が異変を見つけるだけでなく、ご本人が何に困っているかを聞いてみると、受診の話も進めやすくなります。
気になる様子の例
これまで葛飾相談室でご家族からうかがってきた話の中でも、次のような様子が続くときに「受診してよかった」という声をよく聞きます。
- 同じことを何度も聞いたり、同じ話を繰り返したりすることが増えた
- 日付や曜日、今いる場所が分からなくなることがある
- 財布や鍵などの置き忘れ、しまい忘れが目立つようになった
- 慣れた料理や買い物、お金の管理がうまくいかなくなってきた
- 意欲が落ちて、身だしなみや趣味への関心が薄れてきた
- ちょっとしたことで怒りっぽくなるなど、性格の変化を感じる
これらは認知症以外が原因のこともあります。1つ当てはまったから認知症、というものではありません。いくつかの様子が続き、暮らしに影響が出てきていると感じるなら、受診を考えるタイミングです。
自己判断せず、まず受診を
早めに受診をおすすめするのには、理由があります。物忘れの原因の中には、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫、甲状腺の病気など、適切な治療によって症状の改善が期待できるタイプが含まれていることがあるためです。こうしたタイプは、専門的な検査で見分けられることがあります。原因を早く確かめることは、その後の見通しを立てるうえでも助けになります。
受診と診断の流れ
いざ受診しようと思っても、「どこに行けばいいのか」で迷う方が多いところです。基本の流れを知っておくと、動き出しやすくなります。
まずかかりつけ医から
最初の相談先としておすすめなのは、ふだんかかっているかかりつけ医です。持病や体の状態、ふだんの様子を分かっているため、相談しやすく、必要に応じて専門の医療機関へつないでもらえます。国は、かかりつけ医が認知症に対応できるよう研修を進めており、相談役となる認知症サポート医の養成も行っています。「物忘れが気になって」と切り出すだけで大丈夫です。
専門の医療機関
くわしい検査が必要なときは、専門の医療機関を受診します。受け皿には、次のようなところがあります。
- もの忘れ外来。物忘れや認知機能を専門に診る外来です。脳神経内科・精神科・老年科などが担っていることが多くあります
- 認知症疾患医療センター。都道府県などが指定する専門の医療機関で、認知症の鑑別診断や、行動・心理症状(BPSD)と体の合併症への対応、専門的な医療相談を行っています
多くは、かかりつけ医からの紹介で受診します。どこにあるか分からないときは、かかりつけ医や地域包括支援センターに聞けば、地域の受診先を教えてもらえます。検査では、問診や認知機能の検査、画像検査などを組み合わせて、総合的に診断していきます。
本人が受診をいやがるとき
初期に多くのご家族がつまずくのが、「本人が病院に行きたがらない」という壁です。ご本人にとって、認知症を疑われること自体が不安で、受診を拒むのは自然な反応でもあります。無理に連れて行こうとすると、かえってこじれてしまうことがあります。
そんなときは、次のような進め方があります。
- 健康診断や、持病の定期受診に合わせて、あわせて診てもらう
- 「私も一緒に診てもらうから」と、家族も一緒に受ける形にする
- かかりつけ医から「一度くわしく調べておきましょう」と勧めてもらう
- 地域包括支援センターや、次に紹介する認知症初期集中支援チームに相談する
ご家族だけで説得しようとすると、関係がぎくしゃくしてしまうこともあります。専門職に間に入ってもらうと、受診につながりやすくなります。
どこに相談できるか
受診と並んで心強いのが、無料で相談できる公的な窓口です。「病院に行く前に、まず誰かに話を聞いてほしい」というときにも頼れます。
地域包括支援センター
まず覚えておきたいのが、地域包括支援センターです。高齢者の暮らしをまるごと支える総合相談窓口で、お住まいの地域ごとに設けられています。社会福祉士や保健師、主任ケアマネジャーなどの専門職が配置され、相談は無料です。
認知症が心配なとき、地域包括支援センターに連絡すれば、地域の受診先や、使える支援、介護保険の申請のしかたまで、まとめて教えてもらえます。「どこに相談すればいいか分からない」というときの、最初の一歩に向いています。相談のしかたは、別記事「ケアマネ・地域包括への最初の相談」にまとめています。
認知症初期集中支援チーム
もうひとつ、初期の段階で頼りになるのが、認知症初期集中支援チームです。これは、医療と介護の専門職が、ご家族の相談などをきっかけに家庭を訪ね、必要な医療や介護につなぎ、ご家族への支援まで、おおむね6か月にわたって集中的に手助けするしくみです。市区町村が設け、地域包括支援センターなどに置かれています。
受診や介護サービスにつながっていない場合などに、支援の対象となることがあります。名称に「初期」とありますが、必ずしも認知症のごく初期の方だけを対象とする仕組みではありません。利用の条件や支援の方法は自治体によって異なります ので、地域包括支援センターや市区町村に確認してください。
そのほかの地域の支え
地域には、ほかにもゆるやかに支えてくれる場があります。認知症地域支援推進員は、医療や介護、地域のつながりづくりの相談に乗ってくれます。認知症カフェは、認知症の本人やご家族が、地域の人や専門職と、お茶を飲みながら気軽に話せる場です。同じ立場の家族と話すだけでも、気持ちが軽くなることがあります。こうした場の情報も、地域包括支援センターで教えてもらえます。
介護保険を始めるには
受診や相談と並行して進めておきたいのが、介護保険の手続きです。介護保険のサービスを使うには、要介護認定という、介護の必要度を判定する手続きが要ります。
ここで知っておきたいのは、確定診断の前でも申請はできるという点です。要介護認定は病名で決まるのではなく、「どのくらい介護の手間がかかるか」で判定されます。そのため、「まだ認知症と診断されていないから申請できない」ということはありません。
大まかな流れは、次のとおりです。
- 市区町村の介護保険の窓口に、要介護認定を申請します。本人やご家族のほか、地域包括支援センター、指定居宅介護支援事業者、介護保険施設などに代行してもらえる場合があります(必要な書類は自治体によって異なります)
- 認定調査員が自宅などを訪ね、心身の状態を確かめます。あわせて、申請後に市区町村が医師へ主治医意見書の作成を依頼 します(ご家族が自分で取りに行く必要はありません。主治医がいない場合は市区町村にご相談ください)
- これらをもとに審査が行われ、原則として申請から30日以内に結果が通知されます(調査や審査の状況により延長される場合があります)。認定の効力は、申請した日にさかのぼります。急いでサービスが必要な場合は、地域包括支援センターやケアマネジャーなどに相談し、暫定のケアプランでの利用と、そのときの費用負担の可能性を確認してください
ふだんの様子を知っているかかりつけ医がいると、意見書の作成が進めやすくなります。申請から結果までのくわしい流れは別記事「要介護認定の申請から結果までの流れ」に、認定が出たあとにサービスを使い始めるまでは「介護保険サービスを使い始めるまでの流れ」にまとめています。
受診と並行して整えておくこと
診断や介護保険の手続きを進めながら、暮らしの土台を少しずつ整えておくと、その後があわてずにすみます。すべてを一度にやる必要はありません。できるところから、ゆっくりで大丈夫です。
- 見守りと安全。火の消し忘れやガス、玄関の戸締まりなど、暮らしの中で心配な場面を見つけておきます。近所やご親族と、ゆるやかに見守り合える関係があると安心です。ただし、安全のための工夫は、ご本人の意向と暮らしの自由に配慮し、必要以上の行動の制限にならないよう、専門職と相談しながら進めてください
- 服薬の管理。飲み忘れや飲みすぎが起きていないか、確かめておきます。医師や薬剤師に相談し、一包化、服薬カレンダー、訪問による薬剤管理 などを検討できます
- お金と書類の把握。ご本人の同意を得ながら、資産・年金・保険・契約・大切な書類の所在を整理します。ご家族が代わりに財産の管理や契約を行う必要がある場合は、金融機関や専門の窓口に相談してください
- 本人の希望を聞いておく。これからどう暮らしたいか、どんなことは避けたいかを、折を見て聞いておきます。判断がしっかりしている初期のうちだからこそ、聞けることがあります
- 判断を支えるしくみを知っておく。お金や契約の管理が難しくなってきたときに備える方法として、判断能力やご希望に応じて、任意後見・法定後見・財産管理の委任・民事信託 などがあります。それぞれ対象・権限・費用が異なりますので、地域包括支援センター、自治体の権利擁護の相談窓口、司法書士、弁護士などに相談してください
- 運転が心配なとき。車の運転に不安を感じるようになったら、早めに主治医に相談し、ご家族で話し合っておくと安心です。免許の扱いについては、主治医や運転免許センターに相談できます
そして何より大切なのは、ご家族だけで抱え込まないことです。認知症の支援は長期にわたることもあり、状態や必要な支援も変化していきます。最初から全部を一人で背負おうとせず、専門の窓口や制度に頼ってよいのだと考えて、早めに手を挙げておきましょう。
よくあるご質問
Q. 親の物忘れが増えた気がします。まず何科に行けばよいですか。
A. 基本的には、ふだんかかっているかかりつけ医が相談しやすい窓口です。かかりつけ医がいない場合や、症状によっては、地域包括支援センターや専門の医療機関へ直接相談する方法もあります。専門的な検査が必要なときは、もの忘れ外来や、脳神経内科・精神科・老年科など、認知症を専門にする診療科を紹介してもらえます。地域には認知症疾患医療センターという専門の医療機関もあります。紹介状や予約が必要かどうかは医療機関によって異なります ので、事前に確認してください。65 歳未満で認知症が疑われる場合は、若年性認知症の専門の相談窓口を案内されることがあります。
Q. 本人が受診をいやがります。どうすればよいですか。
A. 無理に病院へ連れて行こうとすると、かえって強く拒まれることがあります。まずは健康診断や持病の通院に合わせて診てもらう、かかりつけ医から「一度くわしく調べてみましょう」と勧めてもらう、といった方法があります。ご家族だけで抱え込まず、地域包括支援センターや認知症初期集中支援チームに相談すると、専門職が家庭訪問して受診につなげてくれることもあります。
Q. まだ診断を受けていませんが、介護保険は申請できますか。
A. 申請できます。要介護認定は、病名ではなく「どのくらい介護の手間がかかるか」で判断されるため、確定診断の前でも申請は可能です。ただし申請には主治医意見書が必要になるため、ふだんの様子を知っているかかりつけ医がいると進めやすくなります。申請は本人やご家族のほか、地域包括支援センターなどに代わりに行ってもらうこともできます。
Q. 認知症と診断されたら、すぐに施設へ入る必要がありますか。
A. 診断だけを理由に、すぐ施設へ入る必要はありません。初期のうちは、住み慣れた自宅で暮らし続ける方が多くいらっしゃいます。まずは見守りや在宅の介護保険サービスで生活を支え、在宅が難しくなってきたときに施設を考える、という順番で構いません。ただし、本人やご家族の安全が保てない場合は、在宅にこだわらず、緊急の支援や住まいの変更を検討してください。
Q. 受診や相談に、お金はどのくらいかかりますか。
A. 公的な相談窓口(地域包括支援センターや認知症初期集中支援チームなど)への相談は原則無料です。医療機関の受診・検査には、加入している医療保険や年齢・所得などに応じた自己負担があります。介護保険のサービスを使うときも、原則1割から3割の自己負担です。具体的な金額は、受診先やお住まいの自治体でご確認ください。
Q. 親の介護のために、仕事は辞めたほうがよいですか。
A. すぐに辞める判断は急がなくて大丈夫です。初期の段階では、まず受診と相談で見通しを立てることが先になります。仕事と介護を続けるための介護休業などの制度もあります(別記事「仕事と介護を両立するには」を参照)。判断に迷うときは、勤め先やケアマネジャー、地域包括支援センターに相談しながら考えていけます。
まとめ
親の様子に認知症のサインを感じたとき、初期にすることは、決して多くありません。
- 気になった様子をメモにして、まずかかりつけ医に相談します。受診では、治療で改善するタイプの見分けもふくめて調べてもらえます
- 地域包括支援センター(相談は無料)や認知症初期集中支援チームなど、公的な窓口に早めに連絡します
- 介護保険の申請は、確定診断の前でも始められます
- 見守りやお金・書類の把握など、暮らしの土台をできるところから整えておきます
- あわてて施設を決める必要はありません。まずは在宅で暮らしを支えることから考えて大丈夫です
はじめての認知症の介護は、分からないことばかりで当然です。受診や相談の段取りから、いずれ住まいを考えるときまで、ふれあい入居サポートセンターでも、社会福祉士などの専門の相談員がご一緒に整理しています。お気軽にご相談ください。
参考文献・公的資料
- 厚生労働省「主な認知症施策について」(認知症初期集中支援チーム・認知症疾患医療センター・認知症サポート医・認知症地域支援推進員・認知症カフェの役割。2026年7月閲覧)
- 厚生労働省「認知症初期集中支援チーム」(対象者・おおむね6か月の支援期間。2026年7月閲覧)
- 厚生労働省「要介護認定について」(申請・主治医意見書・原則30日以内の通知・効力の申請日への遡及。2026年7月閲覧)
- 国立長寿医療研究センター「認知症の診断・治療」「認知症の原因となる正常圧水頭症」(治療で改善が期待できるタイプの鑑別。2026年7月閲覧)
