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コラム入居の準備ご家族向け

老人ホームの体験入居の使い方
— 分かること・分からないことを社会福祉士が整理 —

見学だけでは決めきれない、というときに使えるのが体験入居です。実際に泊まってみることで、パンフレットにも見学にも表れない日常の感触が分かります。 ただし、体験入居で分かることには限りがあります。そこを知らずに「体験してみて良かったから大丈夫」と決めてしまうと、入居後に思っていたことと違う、という事態になりかねません。 本記事では、体験入居で確かめられること・確かめられないことを分けて整理し、ショートステイとの違い、費用の確認の仕方、本人が嫌がるときの進め方までまとめました。
掲載日:2026.10.16|監修:社会福祉士・入居相談員
この記事の答え

体験入居では、食事・夜間・入浴・雰囲気といった日常の感触が確かめられます。一方で、介護が重くなったときの対応や看取りの場面までは分かりません。

体験入居は、その施設に入居を検討している方が実際に泊まって暮らしを確かめる取り組みで、介護保険のサービスであるショートステイとは別のものです。費用は施設によって大きく異なりますので、1泊あたりの総額と、含まれるもの・別途かかるものを申し込み前に書面で確認してください。確かめられるのは、食事の味と量、居室の温度・音・におい、夜間の職員の動き、入浴の実際、他の入居者の雰囲気、職員の声のかけ方などです。一方、長い時間をかけて築かれる人間関係、季節が変わったときの環境、介護が重くなったときの対応、看取りの場面での動き方までは分かりませんので、重要事項説明書と施設への質問で補います。ご本人が嫌がるときは無理に進めず、段階を分けます。体験中に契約を急かされても、その場で決める必要はありません。
中川 優美(社会福祉士・入居相談員)
この記事の監修者

中川 優美Yumi Nakagawa

社会福祉士。ふれあい入居サポートセンター葛飾相談室にて、入居相談を担当。見学・体験入居の同行から、入居後のフォローまでご家族をサポートしている。
社会福祉士(国家資格)ふれあい入居サポートセンター 葛飾相談室高齢者向け住まい紹介事業者届出 25-0881
編集ポリシー:本記事は、当センターの見学同行・入居相談の実務をもとに執筆しています(2026 年 8 月時点)。体験入居は施設が独自に用意している取り組みであり、受け入れの可否・日数・費用・介護保険の適用は施設によって異なります。かならず個別の施設にご確認ください。本記事内の事例はイメージで、特定の個人を表すものではありません。

まず知っておきたいこと

体験入居は、入居を検討している施設に実際に泊まって、暮らしを確かめる取り組みです。日数は数日程度から1週間程度まで、施設によってさまざまです。

大切なのは、体験入居を「合否を決めるテスト」ではなく「情報を集める手段」として使うことです。

見学は、たいてい日中の限られた時間に行われます。そのため、いちばん人手が薄くなる夜間や早朝の様子、食事の実際、入浴の段取りといった、暮らしの中心にあたる部分が見えません。体験入居は、そこを埋めるためのものです。

一方で、体験入居はご本人にとって環境が変わる出来事でもあります。負担も伴いますので、目的をはっきりさせてから使うほうが、得られるものが大きくなります。

なお、受け入れの可否・日数・費用・介護保険が使えるかどうかは、施設によって異なります。「体験入居はできますか」と聞いたときに、施設によって答えの中身がまったく違うのはそのためです。

ショートステイとの違い

「体験入居」と「ショートステイ」は、しばしば混同されます。制度上の位置づけが違いますので、分けて理解しておくと問い合わせがスムーズです。

体験入居ショートステイ(短期入所生活介護など)
位置づけ施設が独自に用意している取り組み介護保険のサービス
目的その施設への入居を検討するため在宅で暮らす方の一時的な預かり・介護者の休息
対象その施設への入居を検討している方要介護認定などを受けている方
申し込み施設に直接担当のケアマネジャーを通してケアプランに位置づける
費用の考え方施設ごとの設定介護保険の自己負担+食費・滞在費など

ややこしいのは、特別養護老人ホームなどが併設のショートステイを「入居前のお試し」として案内することがある点です。短期入所生活介護は介護保険法が居宅サービスのひとつとして挙げているサービスで、利用した費用には居宅介護サービス費が支給されます。そのため、この場合は原則として担当のケアマネジャーにご相談ください。 利用の進め方はお住まいの市区町村によって扱いが異なることがありますので、あわせて市区町村の窓口にもお尋ねください。

ショートステイそのものの使い方は、別記事「ショートステイの使い方」でお伝えしています。

費用の確かめ方

体験入居の費用は、施設によって大きく異なります。無料としているところもあれば、宿泊費・食費・介護にかかる費用をそれぞれ設定しているところもあります。

金額そのものより、内訳の確かめ方を押さえておいてください。

  • 1泊あたりの総額はいくらか(「1泊◯円」と言われても、食事代が別のことがあります)
  • 含まれているもの(食事の回数、入浴、おむつなどの消耗品、洗濯)
  • 別途かかるもの(送迎、理美容、医療機関への付き添い)
  • キャンセルしたときの扱い(何日前まで無料か)
  • そのまま本入居した場合、体験の費用はどう扱われるか

最後の項目は見落とされやすい点です。体験入居の費用が本入居の初期費用に充当される施設もあれば、まったく別に扱う施設もあります。

体験入居で分かること

体験入居でいちばん価値があるのは、数字や書面に表れない部分です。

食事

  • 味付けは口に合うか(濃さ、やわらかさ)
  • 量は多すぎないか、少なくないか
  • 食べるのに時間がかかったとき、急かされないか
  • 食べられないものへの代替はあるか

夜間

  • 夜の見回りの回数と、そのときの音
  • 呼び出しに応じるまでの時間
  • 廊下や居室の明るさ
  • 眠れているか

入浴

  • 実際に入れる曜日と時間帯
  • 浴室までの移動、待ち時間
  • 介助の丁寧さ

居室と環境

  • 温度と湿度、空調の音
  • 隣室や廊下の音
  • においが気にならないか
  • 持ち込んだものが置けるか

人

  • 職員がご本人にどう声をかけるか(名前で呼ぶか、指示口調になっていないか)
  • 他の入居者の表情、話し声があるか
  • 職員同士のやり取りの雰囲気

体験のあとは、ご本人に感想を伺うことも忘れないでください。「どうだった?」だけでは答えにくいので、「ごはんはどうだった?」「夜は眠れた?」のように場面を分けて尋ねると、具体的な答えが返ってきやすくなります。

見学時に見ておくポイントは、別記事「老人ホームの見学で社会福祉士が必ず見る 12 のチェック」で詳しくお伝えしています。

体験入居では分からないこと

ここが本記事でいちばんお伝えしたい部分です。体験入居は万能ではありません。

分からないことなぜかどう補うか
長い時間をかけて築かれる人間関係数日では表面しか見えない入居後の面会で確かめる
季節が変わったときの環境夏に体験すれば冬の寒さは分からない空調の仕組みを施設に質問する
介護が重くなったときの対応今の状態でしか体験できない重要事項説明書と施設への質問で確認
看取りの場面での動き方体験では起こらない対応の実績と体制を質問する
職員の入れ替わり数日では見えない職員の在籍年数などを質問する
費用が将来どう変わるか体験の費用と本入居の費用は別利用料の改定のルールを契約書で確認

とくに 「介護が重くなったとき」「看取りの場面」 は、入居後の暮らしを大きく左右する部分でありながら、体験では見えません。ここは書面と質問で埋めるしかありません。

重要事項説明書の読み方は、別記事「重要事項説明書の読み方8項目」で解説しています。

なお、本入居したあとに「やはり合わない」となった場合、有料老人ホームには短期間で解約したときの扱いについての決まりがあります。詳しくは別記事「老人ホームの短期解約と90日ルール」をご覧ください。

本人が嫌がるときの進め方

体験入居をご本人が嫌がることは珍しくありません。無理に連れて行くことはおすすめしていません。

「入居のお試し」と伝えると、それだけで身構えてしまう方がいます。段階を分けてみてください。

  1. 食事だけ … 見学の際に、昼食を一緒に食べられる施設があります
  2. 半日だけ … 泊まらずに、日中の時間だけ過ごしてみます
  3. 1泊 … 短く区切って試します
  4. 数日 … 慣れてから日数を延ばします

デイサービスやショートステイを先に使い、自宅を離れて過ごすことに慣れていただく進め方もあります。

ご本人が納得しないまま入居に進めると、入居後に気持ちが落ち着かない要因になります。 時間をかける価値のある場面です。とはいえ、介護するご家族が限界に近いときに「本人の納得を待つ」だけでは、共倒れになりかねません。その場合は、ショートステイなどの一時的な支援を使いながら進めてください。

入居を拒まれるときの進め方は、別記事「親が施設入居を拒むとき」でお伝えしています。

よくあるご質問

Q. 体験入居とショートステイは同じものですか。

A. 別のものです。ショートステイは介護保険のサービスで、要介護認定を受けている方が担当のケアマネジャーを通して利用します。体験入居は施設が独自に用意している取り組みで、その施設への入居を検討している方が実際に泊まって暮らしを確かめるものです。費用の考え方も申し込みの窓口も異なります。

Q. 体験入居にかかる費用はどれくらいですか。

A. 金額は施設によって大きく異なり、無料としているところもあります。介護保険が使えるかどうかも施設や利用の形によって変わります。申し込みの前に、1泊あたりの総額と、含まれるもの・別途かかるものを書面で確認してください。本入居したときにその費用がどう扱われるかも、あわせて確かめておきます。

Q. 体験入居で何が分かりますか。

A. 食事の味と量、居室の温度・音・におい、夜間の職員の動き、入浴の実際、他の入居者の雰囲気、職員の声のかけ方など、見学だけでは分からない日常の感触が確かめられます。一方で、長い時間をかけて築かれる人間関係、季節が変わったときの環境、介護が重くなったときの対応、看取りの場面での動き方までは分かりません。

Q. 本人が体験入居を嫌がります。

A. 無理に連れて行くことはおすすめしていません。「食事だけ」「半日だけ」「1泊だけ」と段階を分ける方法があります。デイサービスやショートステイを先に使って、自宅を離れて過ごすことに慣れていただく進め方もあります。ただし、介護するご家族が限界に近いときは、納得を待つだけでなく一時的な支援を併せて使ってください。

Q. 体験入居中に契約を勧められました。

A. その場で決める必要はありません。 持ち帰って検討したいと伝えて構いません。入居契約は、ご本人が理解して意思を示せる状態であることが前提になります。強く急かされる、断ると態度が変わるといった様子があるときは、その進め方そのものを判断材料にしてよいと考えます。

まとめ

体験入居の使い方について、大切な点を振り返ります。

  1. 体験入居は「合否を決めるテスト」ではなく、情報を集める手段です
  2. ショートステイとは別のものです。ショートステイは介護保険のサービスで、ケアマネジャーを通して利用します
  3. 費用は施設ごとに大きく異なります。1泊あたりの総額と内訳を書面で確認します
  4. 確かめられるのは、食事・夜間・入浴・環境・人の感触です
  5. 介護が重くなったときの対応や看取りの場面は分かりません。重要事項説明書と質問で補います
  6. ご本人が嫌がるときは段階を分けます。ただしご家族が限界に近いときは一時的な支援も併せて使います
  7. 体験中に契約を急かされても、その場で決める必要はありません

体験入居は、うまく使えば見学だけでは得られない材料が手に入ります。どの施設で、何日くらい、何を確かめるとよいかで迷われたときは、お気軽にご相談ください。

参考文献・公的資料

  1. 厚生労働省「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」— 契約内容等(契約解除の要件、前払金の返還等)(2026年8月閲覧)
  2. 老人福祉法(昭和38年法律第133号)第29条および老人福祉法施行規則第21条 — 短期間での契約解除の場合の前払金の返還(e-Gov 法令検索、2026年8月閲覧)
  3. 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」— 短期入所生活介護(ショートステイ)のサービス内容(2026年8月閲覧)
  4. 介護保険法(平成9年法律第123号)第8条第1項・第9項 — 短期入所生活介護が居宅サービスのひとつであること(2026-10-09 確認)
  5. 介護保険法(平成9年法律第123号)第41条第1項 — 指定居宅サービスを受けたときに居宅介護サービス費が支給されること(2026-10-09 確認)

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