退院期日 10 日でも、順番を間違えなければ動かせます。「決め切る」より「全部の歯車を同時に回し始める」感覚で進めるのが鍵です。

中川 優美Yumi Nakagawa
10 日の進め方
退院期日まで 10 日というケースを想定し、ご家族が同時に進めるべき動きを早見表にまとめました。
| 時期 | やること | 主な相談先 |
|---|---|---|
| 1〜2 日目 即連絡する | MSW・地域包括への連絡、要介護認定の状況確認、親御さんの経済状況の把握 | 病院 MSW、地域包括支援センター |
| 3〜5 日目 候補を絞る | 入居相談センターに相談、希望条件の整理、候補施設の絞り込み | 入居相談センター(紹介事業者) |
| 6〜8 日目 見学・確認 | 候補施設 2〜3 件の見学、医療体制・夜間看護・空き状況の確認 | 施設、入居相談員 |
| 9〜10 日目 契約・入居準備 | 重要事項説明書の確認、契約、入居一時金プランの選択、退院日の搬送手配 | 施設、家族 |
10 日でこれを全てこなすには、1〜2 日目に動き出す相手を 2〜3 か所同時に動かすのが鍵になります。「順番に進める」のではなく、「全部の歯車を同時に回し始める」感覚です。次のセクションから各時期の具体的なやり方を順にみていきます。
なぜスピード対応が必要なのか
「もう退院ですか」と感じるかもしれません。これは個別の病院の都合ではなく、医療制度全体の仕組みによるものです。
急性期病院の在院日数
転倒・骨折・脳血管疾患などで急性期病床に入院した場合、在院日数は今の医療制度の中で短く設計されています。多くの急性期病院では入院から数日以内に退院支援が始まり、MSW(医療ソーシャルワーカー)や退院調整看護師が、退院後の住まい・在宅サービスについてご家族と相談を始めます。
特養は今からだと間に合わない理由
「とりあえず安い特養を」と考えるご家族は多いですが、退院期日まで 10 日のシナリオでは特養は現実的に間に合わないことが多いのが実情です。
- 全国の特養待機者は約 22.5 万人(2025 年 4 月、厚生労働省)
- 申込から実際の入所まで地域差が大きく、葛飾区周辺でも数か月から年単位
- 親御さんの要介護度が 1〜2 の場合、特例入所の対象になりにくい
特養を申し込むこと自体は意味があります(「順番が回ってきた時に検討する」という長期視点で)。ただ、退院期日には別の住まいに入る前提で動くのが現実的です。
候補となる主な選択肢
退院期日が迫った時に現実的な選択肢は、次の 3 つです。
- 1介護付き有料老人ホーム要介護 1 から受け入れ、空きがあれば数日〜数週間で入居可能。月額目安は約 15〜30 万円で、入居一時金型と月額型のプランがあります。
- 2介護老人保健施設(老健)在宅復帰を原則の目的とする施設で、3〜6 か月の入所で時間を稼げます。要介護 1 以上が対象、月額目安は約 11〜15 万円。
- 3住宅型有料老人ホーム + 訪問介護軽度から重度まで幅があり、医療依存度が低めの方向き。介護は外付けの居宅サービスを利用するため、介護度が重くなると外付け費が増えます。
ご家族の予算・親御さんの介護度・医療依存度によって、どれが現実的かは変わります。詳しい比較は「特養と介護付き有料老人ホームの違い」もご参照ください。
1〜2 日目にやること(病院 MSW と地域包括への即連絡)
退院期日を告げられた最初の 2 日でやるべきは、動き出す窓口を増やすことです。
病院 MSW から確認する 5 項目
入院した病院の主治医・退院調整看護師・MSW のいずれかに、次の 5 項目を確認してください。
- 病状と治療方針(手術の有無、リハビリの必要性、退院時の見込まれる状態)
- 退院期日と延長可能性(おおよその目処、医療必要度から延ばせるかどうか)
- 退院支援の窓口(MSW か退院調整看護師か。担当者の氏名と連絡先)
- 要介護認定の有無(既にお持ちの場合は介護度・有効期限。なければこれから申請)
- 退院時に想定される医療処置(経管栄養・吸引・点滴・在宅酸素などの有無)
これは後にケアマネジャーや入居相談員と話すときの共通言語になります。曖昧なままだと、すべての話が前に進みません。
地域包括支援センターへの連絡
地域包括支援センターは、市区町村が設置する高齢者の総合相談窓口で、社会福祉士・主任ケアマネジャー・保健師の 3 職種が無料で相談を受け付けます。
- 親御さんの住所地の地域包括支援センターに電話(市区町村サイトで検索可能)
- 「親が入院中で、退院期日まで 10 日です」と最初に伝えます
- 要介護認定の代行申請を依頼できる場合があります(窓口に行く時間がないご家族向け)
地域包括支援センターは、要介護認定の代行申請を含めて、初回相談を訪問・電話・来所のどれでも受け付けてくれます。
親御さんの経済状況の把握
退院後の住まい候補を絞るためには、親御さんの経済状況の把握が欠かせません。施設費用が見えないと候補を絞り込めません。
| 確認項目 | 確認方法 |
|---|---|
| 年金額(月額) | 年金振込通知書、ねんきんネット |
| 預貯金 | 通帳、ネットバンキング |
| 介護保険の自己負担割合(1 割・2 割・3 割) | 介護保険負担割合証(毎年 8 月切り替わり) |
| 介護保険被保険者証 | 65 歳以上は保有、要介護認定の申請にも必要 |
| 補足給付の対象になりそうか | 世帯非課税かどうかを確認 |
特に介護保険の自己負担割合は、後の費用試算で重要になります。最新の負担割合証を確認してください。
3〜5 日目にやること(入居相談センターと候補施設の絞り込み)
要介護認定の申請が動き出し、地域包括支援センターと連携が取れた段階で、**入居相談センター(紹介事業者)**にも声をかけます。
入居相談センターの役割
入居相談センターは、施設選びに特化したサポートを提供する民間事業者です。費用や受入条件で施設を絞り込み、見学同行・契約サポートまで一貫して行います。
- ご相談・施設のご紹介は無料(事業者が施設から紹介手数料を受け取る仕組み)
- 担当する入居相談員は社会福祉士などの有資格者が多い
- ご家族の代わりに、施設の空き状況・受入条件を電話で照会してくれる
- 退院期日が迫るスピード対応に慣れている事業者を選ぶのがポイント
病院 MSW から入居相談センターへの引き渡し
実は、多くの急性期病院ではMSW が地元の入居相談センターをご家族に紹介する運用が一般化しています。
- MSW は退院後の住まい候補を直接施設交渉する権限を持たないことが多い
- 代わりに、地域に詳しい入居相談センターをリスト化してご家族に渡す
- ご家族は紹介された複数の事業者の中から、対応の早さ・人柄で選ぶ
「MSW から紹介事業者のリストをもらった、どこに連絡すればよいか」というご相談を、これまでお会いしてきたご家族から多くいただいてきました。複数の事業者に並行で声をかけて、最初に親身に対応してくれた事業者を本命にするご家族が多いです。
入居相談センターに伝える情報
最初の連絡では、1〜2 日目に集めた情報をまとめて伝えます。
- 親御さんの介護度・医療処置の有無
- 退院期日(残りの日数)
- 月額予算(無理のない上限)
- 立地希望(家族が面会しやすい範囲)
- 認知症の有無・程度
- 看取り対応の希望
これらを伝えると、入居相談センターは候補施設を 3〜5 件に絞って提示してくれます。
入居相談センターの選び方の注意点
「入居先がすぐ決まる」と謳う事業者の中には、自社の提携施設を優先的に紹介する事業者もあります。気になった場合は次の 2 点を確認すると、健全な事業者か判断しやすいかと思います。
- 提携先・非提携先の区別を明示しているか
- 「他社で断られた案件」にも対応した実績があるか
ふれあい入居サポートセンターでは、社会福祉士などの専門の相談員が、提携先・非提携先の区別を明示したうえでお話を伺います。
6〜8 日目にやること(見学・条件確認)
候補施設が 2〜3 件に絞れたら、6〜8 日目に短期の見学と最終確認を行います。
短期で見るべき 5 ポイント
退院期日が迫った中での見学は、時間が限られているので確認すべきポイントを絞るのが現実的です。
- 医療体制:看護師の常駐時間、嘱託医、協力医療機関、必要な医療処置への対応可否
- 夜間看護:夜勤の人員配置、夜間の医療対応
- 空き状況の最終確認:「いつから入居可能か」の確定(複数家族で取り合いになっている可能性も含めて)
- 契約条件:入居一時金の有無、月額費用の最終確定値、追加料金の発生条件
- 退去要件:医療必要度が上がった時の対応、看取りまでの方針、要介護度変動時の費用変動
入居相談員の見学同行
ご家族だけで見学に行くより、入居相談員に同行してもらうご家族が多いのが実情です。
- ご家族が確認漏れしがちな項目(看護師配置・追加料金など)を入居相談員が代わって質問してくれる
- 施設側との交渉(入居一時金の調整、入居日の前倒しなど)を入居相談員が代行することも
- 「見学」という名目で、ご家族の判断材料を整理する場として機能する
平日昼の時間帯がおすすめ
見学は、平日昼の入居者が活動している時間帯(11:00〜14:00 頃)が、施設の雰囲気を最もつかみやすい時間です。退院期日が迫っている場合でも、夕方や夜の見学だと施設の様子が伝わりにくくなるので、可能であれば昼の時間帯を確保するのがおすすめです。
9〜10 日目にやること(契約・入居準備)
候補が 1 つに絞れたら、最後の 2 日で契約・入居準備を進めます。
重要事項説明書の確認
施設が交付する重要事項説明書には、以下の項目が記載されています。
- 月額費用の内訳と最新の値
- 入居一時金の有無と償却期間
- 看護師・介護職員の配置
- 食事提供・医療連携の体制
- 退去要件と返金条件
退院期日が迫って急いでいるとしても、重要事項説明書だけは目を通すことをおすすめします。後で「聞いていなかった」と感じる項目(例えば「介護必要度が上がった時の追加料金」など)は、ここに書かれているケースが多いです。
入居一時金 0 円プランの選び方
退院期日が迫る入居では、入居一時金 0 円プランを選ばれるご家族が多いのが実情です。
- 急いで決めた施設で「合わなかった」場合、短期で退去する可能性を残せる
- 入居一時金は償却期間中の退去で未償却分は返還されますが、短期退去だと実質負担が大きくなる
- 0 円プランなら、合わなかった時に身軽に転居できる
「特養への移転を見据えている」「介護度の変化次第で再考したい」といった事情があれば、入居前に相談員に伝えるとプランの選択がスムーズです。
退院日の搬送手配
退院日は、病院から施設までの搬送が必要になります。
- 介護タクシー(民間サービス、介護保険外)
- ご家族の車(医療処置がない場合)
- 施設による送迎(一部の介護付き有料は対応)
医療処置(経管栄養・酸素療法など)がある場合は、介護タクシーや病院連携の搬送サービスを病院 MSW に相談すると、退院当日のトラブルを減らせます。
老健という時間を稼ぐ選択肢
「10 日では決め切れない」「もう少し情報を集めてから判断したい」というご家族には、**介護老人保健施設(老健)**を時間を稼ぐ選択肢として活用する方法があります。
老健の特徴
- 要介護 1 以上が対象(特養より入所しやすい)
- 在宅復帰を原則の目的とする施設で、入所期間は 3〜6 か月が目安
- 医師・看護師・リハビリ職員(PT/OT/ST)が配置されており、医療管理が手厚い
- 月額目安は約 11〜15 万円(要介護度・所得段階・地域区分で変動)
- 入居一時金なし
老健で時間を稼ぐ進め方
老健で 3〜6 か月のリハビリ期間を取りながら、その間に次の住まいを決める進め方は、ふれあい入居サポートセンターでも相談を受けるパターンの一つです。
- 退院期日には老健に入所し、急性期病床を空ける
- リハビリで状態が改善する可能性を見ながら、次の選択肢を考える
- 改善次第で在宅復帰、または介護付き有料・特養への移行を判断
- 期間中に特養申し込みも進められる
ただし、老健は在宅復帰が原則の目的なので、長期入所には向きません。3〜6 か月の retreat として使う、と理解しておくのが安全です。
ケース別の判断
退院期日が迫る中での施設選びは、親御さんの状況によって判断のポイントが変わります。
- 1ケース A — 医療依存度が高い場合(経管栄養・吸引・酸素療法など)介護付き有料の中でも医療体制が手厚い施設、または介護医療院を最優先で当たります。看護師 24 時間常駐、嘱託医の往診頻度を必ず確認します。受入実績がない施設だと退去要件に当たる可能性があるので、最初の電話照会で「経管栄養の方は対応可能か」を確認します。
- 2ケース B — 認知症が進行している場合(徘徊・夜間対応が必要)認知症対応型グループホームは、原則親御さんの住所地と同じ自治体内が対象(地域密着型サービス)です。要介護 1〜2 の認知症診断があれば候補に入りますが、空きが少ないので並行で介護付き有料の認知症対応棟も探します。月額目安は約 12〜16 万円。
- 3ケース C — 月額予算が厳しい場合介護付き有料で月額 10 万円以下は現実的に厳しいです。候補としては老健、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(介護外付け)。世帯非課税で補足給付対象なら、特養申込と並行して老健で時間を稼ぐ進め方が現実的です。
- 4ケース D — 認知症なし+経済的に余裕がある場合介護付き有料の中から、医療体制・立地・施設の雰囲気で選ぶ余地が広がります。入居一時金型のプランで月額を抑える選択もありますが、短期退去リスクを考えて 0 円プランから検討するのが安全です。
よくある質問
Q. 退院期日まで 10 日しかない場合、特養への申し込みはやめた方がいいですか?
A. やめなくて大丈夫です。退院期日には介護付き有料や老健に入りつつ、特養の順番を待つ進め方が現実的です。退院期日の住まいと、長期の住まいを分けて考えると整理しやすいかと思います。
Q. 入居一時金の金額が高い施設と 0 円の施設、どちらを選ぶべきですか?
A. 退院期日が迫った急ぎの入居では、0 円プランから検討されるご家族が多いです。一時金型は長期入居が前提のお得なプランなので、施設に合わなかった時の負担が大きくなる可能性があります。長期入居の確信が持てた段階で、一時金型に切り替えることもできる施設もあります。
Q. 病院に MSW がいない場合、どうすればよいですか?
A. すべての病院に MSW がいるわけではありません。MSW がいない場合は、退院調整看護師または病棟看護師長に退院支援を相談するか、地域包括支援センターに直接連絡してください。地域包括支援センターは、入院中のご家族からの相談にも対応してくれます。
Q. 親が施設入居を強く拒んでいる場合、どうすればよいですか?
A. 退院期日が迫っていると、ご本人の意思確認に十分な時間が取れないことがあります。地域包括支援センターやケアマネジャーに第三者として話し合いに加わってもらう、ショートステイから段階的に環境に慣れてもらう、などの方法があります。「家族 vs 親」の構図ではなく、「専門家を交えて整理する」場に持ち込むのが穏当です。
Q. 看取りまで対応してくれる施設を探したいのですが、急ぎの中でどう確認すればよいですか?
A. 看取り対応を前提にする場合は、見学時に**「夜間の看護師体制」「協力医療機関」「看取りまでの実績」**の 3 点を具体的に確認してください。介護付き有料の中には看取り介護加算を算定している施設が多くありますが、実際の対応の手厚さは施設で異なるため、過去 1〜2 年の看取り件数を聞くのが現実的な目安になります。
まとめ
退院期日が迫る中での施設選びは、10 日というタイトな期日でも、順番を間違えなければ動かせます。
- 1〜2 日目:病院 MSW・地域包括支援センターへ即連絡、要介護認定の状況確認、親御さんの経済状況の把握
- 3〜5 日目:入居相談センターに相談、希望条件を伝えて候補施設を絞り込む
- 6〜8 日目:候補 2〜3 件の見学、医療体制・夜間看護・空き状況の確認
- 9〜10 日目:重要事項説明書の確認、契約、入居一時金プランの選択、退院日の搬送手配
「決め切る」より「全部の歯車を同時に回し始める」感覚で進めると、結果としてご家族にとって無理のない選択になりやすいと感じています。
10 日で決め切れない場合は、老健で 3〜6 か月の時間を稼ぐ選択肢も視野に入れてみてください。「決められない」ことを一時的に許容する選択は、現実的で穏当な進め方です。
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参考文献・公的資料
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」(2026 年 5 月閲覧)
- 厚生労働省「特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和 7 年度)」(2025 年 4 月 1 日時点、2026 年 5 月閲覧)
- 厚生労働省 老健局「介護医療院開設状況」(2024 年 4 月 1 日時点)
- 厚生労働省「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」(最新改正:令和 6 年 12 月 6 日)
- 厚生労働省「地域包括支援センターについて」(2026 年 5 月閲覧)
- 公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」(2026 年 5 月閲覧)
