多くの場合、ご本人が守りたいものとご家族が恐れているものは、別々のことを指しています。正面からぶつかっていないことを先に確かめてください。

中川 優美Yumi Nakagawa
なぜ割れるのか
意見が割れるのは、どちらかがわがままだからではありません。立っている場所が違うため、見えているものが違うからです。
| ご本人が優先しがちなもの | ご家族が優先しがちなもの | |
|---|---|---|
| 時間の見方 | 今日の暮らしをこのまま続けたい | この先に起きうることが心配 |
| いちばんの心配 | 自分でできることが減ること/人の世話になること | 事故が起きること/自分が倒れること |
| 場所への思い | 家そのものへの愛着、慣れた近所付き合い | 家の造りが危ない、目が届かない |
| お金の見方 | 子どもに負担をかけたくない | 使えるものは使って安全を買いたい |
| 決めることへの感覚 | まだ決めなくてよい/決められたくない | 早く決めないと間に合わない |
ここで押さえておきたいのは、ご家族の「もう限界だ」は、多くの場合ご本人への否定ではないという点です。介護の負担が積み重なった結果であり、ご本人を大切に思っていないわけではありません。この点をご本人に伝えられるかどうかで、話の進み方が変わります。
正面からぶつかっていないことが多い
実務でよくあるのは、「在宅か施設か」という 1 つの問いにしてしまったために、勝ち負けの話になっているという状態です。
たとえば次のようなケースがあります。ご本人が「家にいたい」と言い続け、ご家族は「夜が心配だから施設に」と譲らない。よく聞くと、ご本人が続けたかったのは「毎朝、近所の方と話すこと」でした。ご家族が怖かったのは「夜に転んでも気づけないこと」でした。
この 2 つは、正面からぶつかっていません。日中の通いの場を確保しつつ夜間の見守りを厚くする、という組み方で両方に応えられる可能性があります。
分けて聞く 5 つの論点
割れているように見えるものを、次の 5 つに分解してください。すべてが割れていることは、実はあまりありません。
- 1① 場所(どこで暮らすか)本当に「家」でなければならないのか、「この地域」ならよいのか、「ひとりになる時間がないこと」が条件なのか。ここを詰めると候補の幅が変わります。
- 2② 安全(何が危ないと思っているか)夜間なのか、火なのか、外出なのか、服薬なのか。具体の場面まで下ろすと、在宅の手当てで対応できるかどうかが判定できます。
- 3③ 費用(誰の、どのお金で払うか)本人の年金・預貯金なのか、家族が補うのか。ここが不明確なまま話すと、双方が別の前提で議論を続けることになります。
- 4④ 介護する方の負担(どこがつらいか)身体的なつらさか、睡眠か、仕事との両立か、精神的な消耗か。つらさの中身によって、打てる手が違います。
- 5⑤ 決め方(誰が、いつまでに決めるか)家族の中で誰が窓口になるのか、いつを目安にするのか。ここを決めずに進めると、話が何度も振り出しに戻ります。
この 5 つのうち、実際に割れているのはどれかを確かめてください。① と ② だけが割れていて、③〜⑤ は一致している、というケースは珍しくありません。割れている箇所が絞れると、話し合う範囲が小さくなります。
本人の意思をどう扱うか
ご本人に判断能力がある場合、決定はご本人のものです。 ご家族が困っていることは事実ですが、それによってご本人の決定権が移るわけではありません。
ケアマネジャーの役割は、代わりに決めることでも、ご本人を説得することでもなく、判断に必要な材料をそろえることです。費用の見通し、実際の施設の様子、在宅を続けた場合に使えるサービス。これらを示したうえで、ご本人が選べる状態をつくります。
ご家族がご本人を外して話を進めようとする場面もあります。頭ごなしに否定するより、「ご本人に伝える場面はこちらで組み立てます」と役割を引き取るほうが受け入れられやすくなります。ご家族の側も、伝えて混乱させた経験を重ねていることが多いためです。
家族の限界も正当に扱う
一方で、ご家族の限界を「わがまま」として扱わないことも同じくらい大切です。
介護する方が倒れれば、ご本人の在宅生活も同時に止まります。ですから、介護する方の状態は、ご本人の状態と並ぶ判断材料です。
| 確認する項目 | 見ておきたい点 |
|---|---|
| 睡眠 | 続けて眠れているか。夜間の対応が週にどのくらいあるか |
| 健康状態 | 持病の悪化、受診できているか、体重の変化 |
| 気持ちの状態 | 落ち込みが続いていないか、以前していたことをやめていないか |
| 仕事・生活 | 休職や離職を考えていないか。介護休業などの制度を知っているか |
| ほかの家族との関係 | 負担が特定の人に偏っていないか。話せる相手がいるか |
会議の場をどう使うか
個別に聞き取ったあと、関係者が集まる場を持つと整理が進みます。このとき、次の点に気をつけると場が荒れにくくなります。
- 1議題を「決めること」にしない「今日決めます」とすると、身構えて本音が出ません。「何が心配かを共有する場」として始めるほうが進みます。
- 2事実を先に置く夜間の対応回数、危険だった場面、かかった時間。感覚ではなく記録から入ると、家族間の言い合いになりにくくなります。
- 3本人が参加できる形にする全編の同席が難しければ、前半だけ、あるいは要点を伝える時間だけでも構いません。全く関与しない形は避けてください。
- 4医療の見立てを入れる主治医や訪問看護から「家でどこまで対応できるか」の見立てがあると、判断の土台が共有できます。
- 5結論が出なくても次を決める「いつまでに、誰が、何を確認するか」を決めて終わると、次に進みます。
合意できないときの扱い
十分に整理しても、合意に至らないことはあります。そのときの扱いを、安全に関わるかどうかで分けてください。
| 状況 | 扱い方 |
|---|---|
| 安全に関わらない論点で割れている | 結論を急がなくて構いません。期限を決めて様子を見る、見学だけしてみる、ショートステイを試すなど、判断材料を増やす方向で進めます |
| 待つこと自体が危険になっている | 合意を待たずに、当面の安全を確保する手当てを先に組みます。緊急のショートステイ、見守りの強化など。安全の確保と入居の合意は分けて進めてください |
| 虐待が疑われる | 合意形成の枠組みではなく、地域包括支援センター・自治体への連絡の枠組みで動きます |
| 家族間で決める人が定まらない | 誰が窓口になるかを家族の中で先に決めてもらいます。ここが決まらないまま施設への打診に進むと、契約の段階で止まります |
よくあるご質問
Q. 本人は在宅継続を希望し、家族は入居を希望しています。どちらを優先すべきでしょうか。
A. どちらかを先に選ぶ問題として扱わないほうが進みます。 多くの場合、ご本人が守りたいものとご家族が恐れているものは別々のことを指していて、正面からぶつかっていないためです。ご本人には「家のどの部分を続けたいのか」を、ご家族には「何が起きるのが怖いのか」を分けて聞くと、両立できる部分が見つかることがあります。そのうえでご本人に判断能力がある場合は、決定はご本人のものです。ケアマネジャーの役割は、判断に必要な材料をそろえ、ご家族の懸念に対する手当てを一緒に考えることになります。
Q. 家族が本人を外して話を進めようとします。どう対応すればよいですか。
A. ご家族の側にも理由があります。ご本人に伝えると混乱する、話がまとまらない、という経験を重ねていることが多いためです。頭ごなしに否定するより、「ご本人に伝える場面はこちらで組み立てます」と役割を引き取るほうが受け入れられやすくなります。そのうえで、ご本人が理解しやすい形(短く、選択肢を 2 つに絞る、体調のよい時間帯に話す)を工夫します。決定の場にご本人が全く関与しない形は、後からご本人が納得できず、入居後の不適応や契約上のトラブルにつながることがあります。
Q. 本人に認知症があり、意思の確認が難しい場合はどうしますか。
A. 意思が確認できないと決めつける前に、伝え方と場面を変えて複数回試すことが基本です。体調のよい時間帯、慣れた場所、短い言葉、写真や実物を使うなどで反応が変わることがあります。それでも確認が難しい場合は、これまでどう暮らしてきたか、何を大切にしてきたかから意向を推し量る形になります。ご家族の希望とご本人の意向推定は別のものとして記録に分けて残してください。 判断能力や契約行為に不安がある場合は、地域包括支援センターや自治体の権利擁護の窓口に相談する道もあります。
Q. きょうだい間で意見が割れている場合はどうしますか。
A. 日常的に介護している方と離れて暮らす方とでは、見えている情報の量が違うことが多くあります。1 週間の具体的な様子(夜間の起きた回数、対応にかかった時間、危険だった場面)を書き出して共有すると、認識の差が縮まりやすくなります。ケアマネジャーが間に入って事実を提示する形にすると、ご家族同士が感情でぶつかる場面を減らせます。それでも決まらない場合、誰が決めるのかを家族の中で先に決めてもらうほうが早いこともあります。
Q. 合意できないまま時間が過ぎています。どこまで待つべきでしょうか。
A. 安全に関わらない論点であれば、結論を急がず時間をかけて構いません。 一方、転倒や火の扱い、介護する方の心身の限界など、待つこと自体が危険になる場合は別です。その場合は合意を待たずに、緊急のショートステイなど当面の安全を確保する手当てを先に組みます。安全の確保と入居の合意は分けて進めてください。 虐待が疑われる状況であれば、合意形成の枠組みではなく、地域包括支援センターや自治体への通報の枠組みで動くことになります。
まとめ
ご本人とご家族で希望が割れたときの進め方を整理しました。
- 割れるのは、立っている場所が違うためです。どちらかがわがままなわけではありません
- 「在宅か施設か」の 1 つの問いにしない。 「何を続けたいか」「何が怖いか」に置き換えて、個別に聞いてください
- 場所・安全・費用・介護する方の負担・決め方の 5 つに分けると、実際に割れている箇所が絞れます
- ご本人に判断能力があるなら、決定はご本人のものです。材料をそろえるのがケアマネジャーの役割です
- 意思確認が難しくても、伝え方と場面を変えて複数回試す。 ご家族の希望と本人の意向推定は記録で分けます
- ご家族の限界も正当な判断材料です。倒れれば在宅生活も同時に止まります
- 合意できないときは、安全に関わるかどうかで分ける。 危険な状況では合意を待たずに手を打ちます
ふれあい入居サポートセンター(葛飾相談室)では、ご意向が固まりきっていない段階でのご相談もお受けしています。受け入れ条件や費用の情報だけをお返しすることもできますので、お気軽にご連絡ください。
参考文献・公的資料
- 厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」(意思確認の進め方、意向の推定。2026年8月閲覧)
- 厚生労働省「地域包括支援センターの概要」(総合相談・権利擁護の役割。2026年8月閲覧)
- 厚生労働省「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」(通報のしくみ、養護者支援の考え方。2026年8月閲覧)
- ふれあい入居サポートセンター 葛飾相談室 入居相談の実務
- ケアマネジメントの基準や運営上の取り扱いは保険者の解釈により異なる場合があります。具体的な運用は所属事業所・保険者にご確認ください。
