日常的な要望は、まず施設の相談担当者や管理者へ伝えると早く改善につながることがあります。解決が難しいときや、安全に関わる問題があるときは、市町村・国保連・運営適正化委員会といった外部の窓口を、内容に応じて使い分けます。

中川 優美Yumi Nakagawa
まず知っておきたいこと
「苦情を言うと、親が施設で肩身の狭い思いをするのではないか」と心配になり、我慢してしまう方は少なくありません。ですが、苦情や相談は施設にとっても、暮らしをよくするための大切な声です。伝えることに後ろめたさを感じる必要はありません。
まず知っておいていただきたいのは、次の2つです。
- 苦情を伝えたことだけを理由に、必要なサービスを行わないなどの不当な扱いをすることは許されません
- 日常的な要望はまず施設内へ。安全に関わる問題は、最初から外部の窓口に相談できます
いきなり外部の役所に持ち込むよりも、まずは施設に直接伝えるほうが、早く対応につながることが多くあります。それでも解決が難しいときや、直接は言いにくいときのために、外部の窓口も用意されています。この記事では、その順番と使い分けを整理してお伝えします。
伝える前に整理しておきたいこと
苦情を伝えるとき、気持ちが高ぶっていると、話がうまく伝わらないことがあります。伝える前に、次の3つを分けて整理しておくと、落ち着いて話せます。
- 起きた事実:いつ、どこで、何があったのか。日付や状況をメモにしておきます
- してほしいこと:謝ってほしいのか、対応を変えてほしいのか、再発を防いでほしいのか
- 手元の記録:面会時のメモ、施設からの連絡、写真など、残っているもの
「対応が悪い」という漠然とした言い方よりも、「先月から○○が続いていて、△△してほしい」と具体的に伝えるほうが、施設も動きやすくなります。感情をぶつけることが目的ではなく、暮らしをよくすることが目的だと考えると、伝え方も定まってきます。
まずは施設のなかで伝える
日常的な対応への要望は、まず施設の相談担当者や管理者へ伝えると、早く改善につながる場合があります。
ただし、施設へ直接伝えにくいときや、虐待・重大な事故・不適切な身体拘束など安全に関わる問題があるときは、最初から自治体などの外部の窓口へ相談できます(緊急性がある場合の相談先は後述します)。
施設の相談担当者・管理者に伝える
日々の介護やケアに関することは、まず現場をよく知る 施設の相談担当者・苦情受付の担当者・管理者 に伝えるのが近道です。担当のケアマネジャーには、ケアプランや介護サービスの見直しについて相談 できます。ただし、施設との契約の問題や賠償の問題を仲裁する立場ではありません。
顔を合わせて話しにくいときは、電話や書面でも構いません。「困っていることがあるので相談したい」と切り出せば、多くの施設は時間をとって対応してくれます。
施設の苦情窓口と第三者委員
福祉サービスを提供する事業者には、社会福祉法にもとづき、苦情を適切に解決するよう努めることが求められています。契約書、重要事項説明書、施設内の掲示、ホームページなどに、施設の苦情相談窓口や外部の相談先が案内されています。
社会福祉法人などが運営する施設では、苦情の解決に客観性を持たせるため、施設の職員ではない第三者委員 を置いている場合があります。第三者委員は、苦情を直接受け付けたり、解決の方法について助言したり、話し合いに立ち会ったりします。設置しているかどうかや連絡の方法は、施設の掲示や説明の書類などで確認してください。
外部の相談窓口
施設との話し合いで解決が難しいとき、施設に直接は言いにくいとき、または安全に関わる問題があるときは、外部の窓口に相談できます。それぞれ役割が違うので、内容に合わせて選びます。各窓口への相談は原則として無料 ですが、電話の通話料や、弁護士などへ正式に依頼する費用は別途かかる場合があります。
| 相談先 | どんなときに | 特徴 |
|---|---|---|
| 市区町村の介護保険担当課 | 介護サービス全般の相談。まず身近な窓口として | 介護保険の保険者。最も身近な相談先です |
| 地域包括支援センター | 介護や暮らし全体の相談 | 適切な相談先を一緒に整理してもらえる場合があります。ただし、施設への指導や契約トラブルの解決を直接行う機関ではありません |
| 国民健康保険団体連合会(国保連) | 介護保険サービスの内容や質への苦情 | 苦情を受け、必要に応じて事業者への調査、指導・助言を行います。住宅の契約や損害賠償などは対象外となる場合があります |
| 運営適正化委員会(都道府県社会福祉協議会) | 社会福祉事業として提供される福祉サービスへの苦情 | 社会福祉法にもとづく第三者機関。民間の有料老人ホームやサ高住、住宅の契約などは対象外となる場合があるため、事前に相談の対象かを確認します |
| 施設所在地の都道府県・指定都市・中核市の有料老人ホーム担当部署 | 施設の運営や指針に合わない対応への相談 | 施設の運営や法令・指針への適合の状況を確認し、必要に応じて指導などを行います。ただし、個別の賠償額や契約上の責任を確定する機関ではありません |
| 消費生活センター(局番なしの188) | 契約・解約・返還金などのトラブル | 契約にまつわる相談全般 |
内容別の窓口の選び方
どこに相談すればよいか迷ったときは、困っていることの中身で選ぶと分かりやすくなります。
- 日々のケアや介護の質(対応が雑、様子を教えてもらえない など)→ まず施設の相談担当者・管理者。解決しなければ市区町村の介護保険担当課や国保連
- 契約・お金(解約、返還金、追加費用の説明 など)→ 消費生活センター(188)。あわせて施設の苦情窓口
- 施設の運営全般(人員体制、指針に合わない対応 など)→ 施設所在地の都道府県・指定都市・中核市の有料老人ホーム担当部署
- どこに相談すべきか分からない→ 地域包括支援センターや市区町村の介護保険担当課。まず入口として相談し、必要な窓口を案内してもらえます
ひとつの相談先で解決しないときは、別の窓口に相談し直しても構いません。窓口どうしが連携して対応してくれることもあります。
伝えるときのこつ
苦情を伝えるときは、次のような点を意識すると、話し合いが前に進みやすくなります。
- 事実と希望を分けて伝えます。「○○が起きた。だから△△してほしい」の形にします
- 記録を残します。日付・状況をメモし、できれば書面で伝えると、後から確かめられます
- 相手を責めるより、改善を求める姿勢で臨みます。同じ目的(親御さんの暮らしをよくする)を共有する言い方が効果的です
- 話し合いの内容を控えておきます。いつ・誰と・何を話したかを記録しておくと、次の相談にもつながります
感情的になってしまっても、それが苦情を受け付けてもらえない理由にはなりません。ただ、事実と希望を分けて伝えると、具体的な改善につながりやすくなります。
書面で伝える場合は、次の点を整理しておくと分かりやすくなります。
- 何が起きたか
- 誰に確認したか
- ご本人がどう困っているか
- 何を改善してほしいか
- いつまでに回答してほしいか
- 回答は書面を希望するか
「◯月◯日までに、確認の結果と今後の対応をご回答ください」と期限を相談し、提出した書面の写しを保管しておくと安心です。ただし、一方的にとても短い期限を設けるのではなく、緊急性と、施設が確認に必要な時間をふまえて期限を相談 してください。
よくあるご質問
Q. 施設に苦情を言うと、親が不利な扱いを受けないか心配です。
A. 苦情を伝えたことを理由に、入居者へ不利益な扱いをすることは認められていません。多くの施設は、苦情を暮らしをよくするための大切な声として受け止めます。それでも心配なときは、市町村や運営適正化委員会など外部の窓口に相談する方法もあり、匿名での相談に応じてもらえる場合もあります。
Q. まずどこに伝えればよいですか。
A. 多くの場合、まずは施設の 生活相談員や施設長 に伝えるのが近道です。重要事項説明書には施設の苦情窓口や第三者委員の連絡先が記載されています。施設内での話し合いで解決が難しいときや、直接言いにくいときに、市町村や国保連、運営適正化委員会といった外部の窓口を使います。
Q. 国保連や運営適正化委員会とは何ですか。
A. 国民健康保険団体連合会(国保連)は、介護保険法にもとづき介護サービスへの苦情を受け付け、事業者を調査して指導や助言を行う機関です。運営適正化委員会は、社会福祉法にもとづき各都道府県の社会福祉協議会に置かれた第三者機関で、福祉サービスの苦情解決の相談やあっせんを行います。いずれも無料で利用できます。
Q. 契約やお金のトラブルはどこに相談できますか。
A. 契約内容や解約、返還金など契約にまつわるトラブルは、消費生活センター(局番なしの188) が相談窓口になります。介護サービスの質に関することは市町村や国保連、施設の運営全般に関することは有料老人ホームの担当課(都道府県・市区町村)と、内容によって窓口を使い分けると相談がスムーズです。
Q. 感情的にならずに伝えるこつはありますか。
A. いつ・どこで・何が起きたのかという 事実 と、どうしてほしいのかという 希望 を、分けて整理しておくと伝わりやすくなります。日付や状況をメモに残し、できれば書面で伝えると記録が残ります。相手を責める言い方よりも、暮らしをよくするために相談したいという姿勢で臨むと、話し合いが前に進みやすくなります。
まとめ
施設への不満や苦情の伝え方について、大切な点を振り返ります。
- 苦情や相談は、暮らしをよくするための大切な声です。伝えることに後ろめたさは要りません
- 多くの場合、まずは 施設の生活相談員・施設長 に伝えるのが解決への近道です
- 重要事項説明書には、施設の 苦情窓口や第三者委員 の連絡先が記載されています
- 施設内で解決が難しいときは、内容に応じて 市町村・国保連・運営適正化委員会・消費生活センター を使い分けます
- 伝えるときは、事実と希望を分け、記録を残すことが話し合いを前に進めます
苦情を伝えたことで、親御さんが不利な扱いを受けることは認められていません。ひとりで抱え込まず、施設や外部の窓口を頼りながら進めていきましょう。伝え方に迷うときや、住み替えも考えたいときは、お気軽にご相談ください。
参考文献・公的資料
- 社会福祉法 第82条(社会福祉事業の経営者による苦情の解決)、第83条(運営適正化委員会)(e-Gov 法令検索、2026年7月閲覧)
- 介護保険法 第176条第1項第3号(国民健康保険団体連合会の業務・苦情処理)(e-Gov 法令検索、2026年7月閲覧)
- 厚生労働省「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」(令和6年12月6日改正、2026年7月閲覧)— 苦情処理体制・重要事項説明書の記載事項
- 厚生労働省「社会福祉事業の経営者による福祉サービスに関する苦情解決の仕組みの指針について」(平成12年、第三者委員の設置等)
