まずは親御さんの状態と治療を最優先に確かめます。落ち着いたら、事故の経緯の説明と事故報告書を施設に求め、記録を残しながら話し合いを進めます。

中川 優美Yumi Nakagawa
まず知っておきたいこと
事故の連絡を受けると、頭が真っ白になり、施設への怒りや不信がわいてくることもあります。その気持ちは自然なものです。ただ、最初にすべきなのは、施設を責めることよりも、親御さんの今の状態を確かめることです。
事故が起きたときの流れは、大きく次の順番になります。
- まず親御さんの状態と、受診・治療の状況を確かめます(緊急のときは治療が最優先です)
- 落ち着いたら、いつ・どこで・どのように起きたのか、施設に経緯の説明を求めます
- 事故報告書の内容を確かめ、再発を防ぐ対応を話し合います
- 説明や対応に納得できないときは、外部の窓口に相談します
転倒や骨折は、介護施設で起きやすい事故のひとつです。すべてが施設の落ち度によるものとは限りませんが、家族には経緯の説明を受け、記録を確かめる権利があります。順番にひとつずつ進めていけば、状況は整理できていきます。
事故が起きたとき施設がすべきこと
介護施設には、事故が起きたときの対応が運営の基準で義務づけられています。感情的になる前に、まず「施設は何をしなければならないか」を知っておくと、確かめるべきことが見えてきます。
運営基準では、事業者は次のことが求められています。
- 事故が起きたときは、速やかに市町村や入居者の家族などへ連絡 し、必要な措置をとること
- 事故の状況と、事故に際してとった処置について 記録すること
- 賠償すべき事故が起きた場合は、損害賠償を速やかに行うこと
さらに、死亡や医師の治療が必要になった事故については、市町村への 報告 が求められています。多くの自治体では、第一報を数日以内(多くは5日以内)に行い、その後に事故報告書を提出する運用としています。命に関わる重大な事故のときは、まず電話で第一報を入れることになっています。
つまり、事故は施設のなかだけで済ませてよいものではなく、記録と報告が前提です。家族は、その記録である 事故報告書 の内容を確かめることができます。
家族が確認したいこと
親御さんの状態が落ち着いたら、施設に次のことを確かめていきます。責め立てるためではなく、状況を正しく知り、再発を防ぐためです。
| 確かめたいこと | 見ておきたい点 |
|---|---|
| 事故の経緯 | いつ・どこで・どのような状況で起きたのか。発見時の様子 |
| 発生後の対応 | 誰がいつ気づき、どんな処置をとったか。受診・連絡までの流れ |
| 親御さんの状態 | けがの程度、診断名、今後の治療や見通し |
| 事故報告書 | 施設が作成した記録の内容。写しをもらえるか確かめます |
| 再発防止 | 同じ事故を繰り返さないために、施設がどう対応を変えるか |
口頭の説明だけでは、後から「言った・言わない」になりがちです。事故報告書の写しをもらう、説明を書面でもらう、話した内容をメモに残すなど、記録を残しておきましょう。
話し合いの進め方
事故のあとの話し合いは、感情が高ぶりやすい場面です。次のような点を意識すると、冷静に進めやすくなります。
- 事実の確認を先にします。責める前に、まず何が起きたのかを施設と一緒に整理します
- 記録を残します。事故報告書、説明の書面、話し合いの日時・出席者・内容をメモしておきます
- してほしいことを具体的に伝えます。謝罪、治療費の扱い、再発防止など、望むことを分けて伝えます
- ひとりで抱え込みません。担当のケアマネジャーや、地域包括支援センターの職員に間に入ってもらう方法もあります
高齢の方は、十分に見守っていても転んでしまうことがあります。一方で、見守りや環境の工夫が足りなかったために起きる事故もあります。どちらなのかは、経緯と施設の対応を確かめてはじめて分かります。決めつけずに、事実を確かめることから始めましょう。
治療費・賠償の考え方
事故のあと、治療費や賠償をどう扱うかは、多くのご家族が気にされる点です。
施設の側に 安全への配慮が足りなかった(見守りや予防が不十分だった)と認められる場合には、損害賠償の対象になります。多くの施設は、こうした場合に備えて 賠償責任保険 に加入しています。治療費や慰謝料などは、この保険から支払われることがあります。
一方で、施設が十分な見守りや予防をしていても、防ぎきれない事故もあります。その場合は、賠償の対象にならないこともあります。賠償の対象になるかどうかは、事故ごとの状況によって判断されるもので、一律に決まるものではありません。
まずは施設から経緯の説明を受け、治療費や賠償の扱いを話し合うことになります。話し合いでまとまらないときや、判断に迷うときは、次の相談先を頼ってください。金額や過失をめぐる法律の判断は、最終的には弁護士など専門家の領域になります。
納得できないときの相談先
施設の説明や対応に納得できないときは、ひとりで抱え込まずに外部の窓口に相談できます。
| 相談先 | どんなときに |
|---|---|
| 市区町村の介護保険担当課 | 施設の対応や事故への対処に疑問があるとき(行政には指導の権限があります) |
| 国民健康保険団体連合会(国保連) | 介護サービスの質やケアの内容への苦情 |
| 消費生活センター(局番なしの188) | 契約や費用の扱いをめぐるトラブル |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 賠償など法律に関わる相談。弁護士への相談につないでもらえます |
賠償や過失をめぐって施設と折り合いがつかないときは、弁護士への相談が選択肢になります。費用が心配なときは、法テラスで収入に応じた無料相談や費用の立替えの制度を案内してもらえる場合があります。苦情の伝え方や外部窓口の使い分けは、別記事「施設への不満・苦情の伝え方と相談先」でも詳しくお伝えしています。
よくあるご質問
Q. 施設で転んで骨折したと連絡がありました。まず何をすればよいですか。
A. まずは親御さんの今の状態と、受診や治療の状況を確かめてください。緊急のときは治療が最優先です。落ち着いたら、いつ・どこで・どのような状況で起きたのか、施設に 経緯の説明 を求めます。介護施設には、事故が起きたとき家族へ連絡し、状況を記録する義務があります。事故報告書を作成していますので、内容を見せてもらいましょう。
Q. 事故が起きると施設は必ず報告するのですか。
A. 介護施設は、事故が起きたときに速やかに市町村や家族へ連絡し、必要な措置をとって状況を記録することが、運営の基準で義務づけられています。死亡や医師の治療が必要な事故については、市町村への報告 も求められています。家族は、施設が作成した事故報告書の内容を確かめることができます。
Q. 治療費や賠償は施設が払ってくれますか。
A. 施設の側に安全への配慮が足りなかったと認められる場合には、損害賠償の対象になります。多くの施設は 賠償責任保険 に加入しています。一方で、十分な見守りをしていても防ぎきれない事故もあり、その場合は賠償の対象にならないこともあります。まずは経緯の説明を受け、費用の扱いを施設と話し合うことになります。
Q. 高齢だから転ぶのは仕方ないと言われました。
A. 高齢の方が転びやすいのは事実ですが、それだけで施設の対応を確かめられないわけではありません。どのような見守りや予防をしていたのか、今後どう再発を防ぐのかを、落ち着いて説明してもらいましょう。説明に納得できないときは、市町村の介護保険担当課や国保連 などの外部の窓口に相談することもできます。
Q. 施設の説明に納得できないときはどうすればよいですか。
A. まずは事故報告書と、経緯・再発防止の説明を 書面でもらい、記録を残して ください。そのうえで納得できないときは、市区町村の介護保険担当課や国民健康保険団体連合会(国保連)に相談できます。賠償など法律に関わることは、消費生活センターや 法テラス で弁護士への相談につないでもらう方法もあります。
まとめ
施設で事故が起きたときの進め方について、大切な点を振り返ります。
- まずは 親御さんの状態と治療 を最優先に確かめます
- 介護施設には、事故発生時に 家族への連絡・記録・市町村への報告 の義務があります
- 家族は、事故報告書と経緯・再発防止の説明 を受けることができます
- 施設の側に配慮が足りなかった場合は 損害賠償の対象 になりますが、防ぎきれない事故もあります
- 説明に納得できないときは、市町村・国保連・消費生活センター・法テラス に相談できます
事故の連絡に動揺するのは当然のことです。ただ、まず事実を確かめ、記録を残しながら話し合うことが、親御さんのこれからの暮らしを守ることにつながります。ご家族だけで抱え込まず、住み替えも含めて迷ったときは、お気軽にご相談ください。
参考文献・公的資料
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第35条(事故の発生又は再発を防止するための措置・事故発生時の対応)ほか、各サービスの運営基準(e-Gov 法令検索、2026年7月閲覧)
- 厚生労働省「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」(令和7年11月)
- 厚生労働省 介護保険最新情報 Vol.1332(令和6年11月29日)— 介護保険施設等における事故報告の取扱いについて
